一覧たび談

ソフトパワーこそ平和の象徴

今年3月、宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』がアカデミー賞長編アニメ映画賞を受賞し、山崎貴監督の『ゴジラ-1.0』も視覚効果賞を獲得するなど、日本の文化ブランドが再び世界的な栄誉に輝いた。
日本のサブカルチャーは、アニメ、ゲーム、J-POPなどのポップカルチャーにとどまらず、和食、茶道、華道、書道、盆栽といった伝統文化や、包丁などの道具類、さらには禅に代表される精神性に至るまで、幅広いソフトパワーを有している。
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近隣諸国に目を向ければ、韓国はK-POPや映画、キムチ文化で世界を席巻しており、中国は「4000年(本国では5000年とも)の歴史」そのものが強力なソフトパワーとなっている。
ただ中国は文化大革命で多くの歴史的遺産が失われたことは非常に惜しまれる。
しかし現在の中国映画は技術的にも内容的にもハリウッドを凌ぐレベルに達し、世界市場で存在感を放っている。インド映画も独自の魅力で世界中に多くのファンを抱えている。
そんな中、トランプ前大統領が「外国映画に100%の関税をかける」と発言し、事実上の輸入禁止措置とも受け取れる方針を打ち出した。
これは、アジア諸国をはじめとする多くの国の文化輸出に大きな打撃を与えかねない。
軍事力や経済力といった「ハードパワー」で「ソフトパワー」を封じ込めようとするこのような姿勢は、容認できない暴挙である。
こうした状況に対して、「日本だけは除外してほしい」と個別に懇願するのではなく、中国、韓国、インドを含むアジア諸国と連携し、「文化交流は経済制裁と切り離すべきだ」との共同声明を発信することが重要だ。映画やファッションなどに強みを持つフランスやイタリアをはじめ、EU諸国とも連携の可能性はある。
現在は映画が対象だが、今後、日本のアニメや伝統文化にまで関税が課される事態も想定される。
日本は決してハードパワーに屈してはならない。
しばしば「ガラパゴス」と称される日本だが、それを逆手に取り、自国文化を意図的に発信していくことこそ、国際的なプレゼンスと国益を高める鍵となる。
一方で地域の現状は、文化庁が「文化を守る」という立場から保守的な戦略を取りながらも、同時に観光資源としての活用を進めるという、一貫性を欠いた対応が見られる。
その結果、保護に重点を置く地域と、積極的に開放する地域が混在し、全国的な戦略としての統一感に欠けている。
今後は、アニメ×食、ゲーム×観光、伝統×テクノロジーといった異文化融合型コンテンツの開発を通じて、訪日目的を多様化させることが求められる。
ソフトパワーは、戦争とは無縁の平和的な力であり、「他国を攻めない」という憲法を持つ日本だからこそ、より強く発揮できる価値がある。
インバウンド客の分散化を図るには、地域ごとの特色を活かしたローカル・ソフト・コンテンツを開発し、「文化で稼ぐ」「文化でつながる」という視点が重要だ。
ただし、依然として日本語コンテンツのローカライズや、海外市場におけるマーケティング力の不足、人材育成の遅れといった課題も残っている。
ここは、観光庁が旗振り役となり、地方自治体への支援を一層強化してもらいたい。
オーバーツーリズム対策だけではなく、文化を軸とした包括的な「文化戦略」こそが、今後の日本の進むべき道ではないだろうか。
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