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農業・農村の6次産業化とTPP

 日本の農業は、ご案内のとおり北海道や僅かな大平野を除く八割は中山間地域だ。当然ながら米国やオーストラリアのような土地利用型農業に不向き。ところが農政は「規模拡大」を御旗に農業を強化するとしている。
戦後の食糧難の時代から、とにかく米を中心とした単一農政は今も続いており、農林水産省に限らず関係団体にも問題がある。福井県越前市の「JA越前たけふ」が2013年1月から米販売や肥料・農薬の購買などの経済事業について、「経済連」経由だった従来のやり方を改め、子会社「コープ武生(たけふ)」で直接手がける方針を決めた。地域農協が主力事業で農協全体の流通網を離れて自主展開するのは極めて異例との報道http://b.hatena.ne.jp/entry/www.asahi.com/business/update/1030/TKY201110300414.html
があったが、米の護送船団方式が崩れたわけで、これはこれから注視すべき事柄だ。 

日本の耕地面積は約4,830,000haあるが、大型機械で農作業ができる平野部は6割、残り4割の2,028,000haは生産コストがかかる中山間地域で行われている。さらに日本人の食の欧米化で肉や乳製品を食することが顕著になっているが、この畜産の拠点も中山間地域が主力だ。世界の先進国でもっとも低い食糧自給率の日本は、生産力が低く競争力が無い中山間地域に頼って命を長らえている。
 その大事な中山間地域農業の担い手の約半分は65歳以上の高齢者で着実に担い手が不足している。今後世界からの食料調達は、人口の伸び続ける中国マネーとの競争激化が予想されるし、自国民を守るため札束を積み上げても輸出してくれない国さえ出現するだろう。ということは即ち、日本の食糧事情は悪化する一方で多くを海外に依存する日本に飢餓時代が突然、襲ってくる可能性が大きい。この事実を認識しないと日本の食糧安保はできない。
内外の様々な場面で日本政府の対応遅れや決断がされないと感じる方が多いだろう。飛鳥時代から「和をもって責任を取らず」という為政者の精神が今も根付いているようだ。

では中山間地域の農業を守り地域に暮らす方々の生活を確保するにはどうしたら良いだろうか。高収益を得る手段として果樹や施設園芸を進めた地域もあるが、近年は農産物の価格は低迷し、嗜好品である果樹類の消費に限界がきている。そうした変化に加え、高齢化から重量負担のある農業の担い手が激減している。
そもそも農業を論ずるとき、大概が家族経営の農業のみ考え「儲からない、生活できない」と言っているのではないだろうか。国が進める大型農業は中山間地域に馴染まない。とすれば進むべき農業のあり方は、図のような農業経営の多角化・マンション経営方式の仕組みしかあり得ない。それゆえに農業の6次産業化を進めることが重要だ。

 昨年3月、「農業6次産業化推進法」が制定され、多方面で事業化が図られている。しかしその実態は、農業が主役ではない、「3×2×1=6」の力関係で、流通・販売企業が中心となって加工企業を押さえ、農産物は単なる原材料供給となりつつあると、日本で初めて6次産業を提唱した今村奈良臣東京大学名誉教授は、国が推進する6次産業路線に警鐘を鳴らしている。また、氏は農村レストランのあり方として、「シェフ(料理人)」でなく「シュフ(主婦)」こそ「地産・地消・地食・地育」の根幹となると訴えており、「マイスター工房八千代」などは、地域の女性がどれほど地域づくりに貢献できるか、これからの地域活性化で女性を中心に考えることがどのくらい大切かを示している事例だ。
筆者は農家だけで6次産業化を奨めるものではないが、農家が主体的に取り組み努力をして欲しいと願っている。

 画一化しグローバル化する社会の中で、自然や文化そして農業、工業の多様性は、中山間地域として生き残れる素材の宝庫だが今のところ、多様性を最大限に活かす活動ができておらず、宝の持ち腐れとなっている。何より阻害要因となっているものは、行政間や企業、商店、農家がバラバラで活動しており、真の行政間連携や異業種連携ができていないことと、自らが有する資源やノウハウの威力に気づいていないことだろう。また天から降ってくるお金を待つ体質や誰かがやってくれるだろうという、依存とリスクを取らない体質は、相変わらず地域のイノベーションを阻害する最悪の要因となっている。
 イノベーションとは、他と違う地域モデルを創ることです。6次産業の果実は、暮らしている方々が、笑顔で幸せを表現できること。そして、子どもや孫が幸せに暮らしていけることだ。今地域で必要なことは、働く場を確保し豊かな生活を維持することに他ならない。
工業から農業へ人が流れる兆しが出ている昨今はチャンスだ。高齢化した農業を活性化させるマーケティングやデザイン、今まで農村にないノウハウや人材が集まれば新たなアイデアが生まれる。「雇用を生む農業」「雇用を生む商業」へ発想の大転換が求められているわけで、活性化を解くカギは農業や商業にあるのだ。
対策は政府がやってくれると目を背けて、そのときが来るのを漫然と待つのか、それとも自ら動くのか。自分たちの食べるものが無くなる日が目の前に迫っていることを忘れないで欲しいと思う。
水を農産物という形に変えて新興国から買いあさる「飽食日本」は崩壊序曲を奏で始めている。このような差し迫った事情から日本の食糧安保を最優先する国内自給の体制を確立しなければならない。

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