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丹波篠山は注目しなきゃ!

近年地方の人口減少に拍車がかかっていますが、住む人が減ることで様々な悪影響が出ます。
俗に、定住者一人当たりの年間消費額は124万円と言われますが、中山間地域では、消費の減少で、生活に必要な食料品や日常品の供給が滞り、ガソリンスタンドも閉店するといった具体的な現象が起きます。更には、遊休農地や空き家の増加、山林の荒廃、有害鳥獣被害の増加といった複合的な影響が起こり、保育園や小学校に通う子どもたちが減り休校そして廃校という悪影響が連続して発生するわけです。
飯田市では平成24年10月、全市の空き家調査を実施しました。市内で585軒の空き家の存在が判明しましたが、倒壊などの恐れがある危険な家屋もあるそうです。結果の詳細や、今後空き家をどうするかの方針は出ていない模様ですが、地域の防災や防犯上問題が出やすい空き家をどうするかは、行政だけでなく、地区や集落で早急に考えていく必要があるでしょう。今回はそうした空き家対策の取組と集落の活性化を目指した事例を紹介します。

■篠山城築城400年祭を観光イベントにしない
 京阪神の大都市圏から車、電車で1時間ほどの距離にある篠山市は、篠山城趾を中心とした歴史的な街並みと平成11年に合併した中山間地域からなる山都です。
丹波篠山は、言わずと知れた黒大豆や丹波栗というブランド農産物を有し、江戸時代の歴史的街並みが残る中心市街地には、重要伝統的建造物群保存地区があり観光の目玉となっています。
一方、大都市圏に近いことが、若者の流出を防ぐことができない両刃の剣となっており、伝統建築物に空き家や劣化が目立ち、中山間地域でも少子高齢化による担い手不足が進み、空き家や遊休農地が増加。鹿、猪などの有害鳥獣が里を荒らす悪循環が始まりました。
 平成21年4月から開催した「丹波篠山築城四百年祭」で、実行委員会は、これを瞬間的な観光イベントではなく、「まちづくりの祭り」と位置付け、「暮らしと住まい」「歴史と文化」「観光」をテーマに、日常の暮らしをメインとした「丹波篠山スタイル」をコンセプトにしました。市民による、市民が楽しむ多彩な自主企画として、途切れていた祭りや伝統食の復活、歴史文化や自然の学習会、特産づくり、まちなみアートフェスティバルといった新イベントの創出など、実に106に及ぶ事業が実施され、これらは、現在も継続される事業へと昇華していきました。
 これと並行して「これから100年のまちづくり委員会」が設置され、市民参画による地域再生に向けたまちづくりが活発になり「ふるさと篠山へ帰ろう、住もう運動」や暮らしをメインとするツーリズム、歴史文化の保全と景観整備など現在のまちづくりの基礎が醸成されていきました。
 
■「集落は家族」古民家と暮らしの再生を図る丸山集落
 篠山市役所から7分前後で行ける丸山集落は、茅葺き古民家群が美しい山里です。1794年(寛政6年)、集落南東側の奥畑から城の水守として移住してきたのが始まりで、約260年の歴史を持ちます。明治16年には11軒50人が暮らしていました。まさに日本のふるさとの原風景が残る集落ですが、昭和30年代頃から仕事を求めて都市部へ出る者が増加。徐々に人口が減少し、空き家が目立ち始めました。
平成10年、集落の一番奥に、蕎麦懐石料理店「ろあん松田」が開業。集落は、オーナーの松田夫妻と子供2人を含め4人の新たな住民を確保するも、平成20年の住民は5世帯19人、高齢化率も約55%となり、12戸(うち11軒が茅葺) の家屋の半数以上が空き家という状況になりました。
 こうした状況を改善するため、平成20年、美しい景観を有する丸山地区の将来を考える上で、「地域の価値」を地域住民が再認識し、共有しようと、ローカルコミュニティに若手行政職員や外部有識者、さらに空き家所有者を交えて地域づくりワークショップ講座が開始されました。
地域の再点検と集落めぐりから将来ビジョンを描く7回のワークショップに加え、空き家活用システム計画の策定に向けた古民家調査、 丸山の景観、自然、古民家の特徴や再生、利活用を学ぶ5回の学習サロン、2回の農家民泊もてなし講座などの多彩な学びは、集落住民を始めとする参加者の意識変革を促しました。所有者が再び集落に戻って暮らし始めたり、空き家を再生した農家民泊によるツーリズム事業、農家をオーベルジュとする計画が浮上するなど、1年の学びの成果が芽吹きました。

■集落まるごとトラストの仕組みづくり
取組の成果は、さらに体制構築に結実します。
「集落は家族である」との理念を掲げ、放置されていた家屋や農地、山林など未使用の個人財産は、地域の共有資産でもあるとして、相続者に代わり集落で財産を協働管理し、生き甲斐の持てる、自律した地域経営を目指した集落NPO「集落丸山」が設立され、そして篠山市の出資法人である「(株)プロビスささやま」(現「一般社団法人NOTE」)が、資金面を含めて集落マネジメントの実施主体として加わり、さらに篠山市内の専門家と連携する有限責任事業組合「LLP丸山プロジェクト」が設立されるなど、体制は急ピッチで整えられました。
 平成21年9月、築150年の空き家3棟がそれぞれの所有者から無償で提供され、「LLP丸山プロジェクト」がリノベーションし農家民泊施設として開業。10月には空き蔵を改築したフランス料理店「ひわの蔵」もオープン。市民農園事業や前述した「ろあん松田」(2012年度関西版ミシュランガイドで一つ星を獲得)と併せ、集落再生の拠点がそろいました。
 
前項の組織について、さらりと書いたため判りづらいかもしれません。下の図で役割分担を整理します。
 「LLP丸山プロジェクト」は、NPO法人「集落丸山」と中間支援組織の「一般社団法人NOTE」が連携して、古民家等の再生整備と滞在型体験施設としての運営を行います。空き家等の所有者は、自らの空き家、空き地、農地等をプロジェクトに10年間無償で貸与します。住民は、事業資金の一部や役務等を提供。これらによって、滞在体験施設の運営、各種体験イベント等を実施するのです。
「一般社団法人NOTE」は、古民家再生や観光、食、イベント等に関する専門家の派遣と市民ファンドの創設・運営、銀行からの資金調達等により集落の取り組みを総合的に支援しています。
 このように丸山集落住民の意識改革とやる気に対して、篠山市内から資金調達まで含めた支援体制を確立したことで、高齢化率50%を越える小集落に生き残る道が開けました。
  雑誌・TV等の各種メディアが「丸山プロジェクト」を取り上げたことや、県内NPO組織による森林ボランティア活動やワークキャンプの受入、都市住民を対象とした食や農、芸術アート等をテーマとした各種ワークショップ開催等の活動を通して、徐々に「集落丸山」の知名度は高まりつつあります。2009年10月開業から2012年3月の宿泊者総数は約2,000人を超え、「LLP丸山ブロジェクト」の収支は黒字経営となるとともに、農家民泊事業などで「集落丸山」の女将として集落出身女性が雇用されるなど若者の働く場ができたのです。

■地域プロデューサーが肝だった
全国的に見ると、小規模の限界集落では、「LLP丸山ブロジェクト」のような困難なプロジェクトを、資金調達まで含めて総合的にプロデュースし、活性化させる組織や人材が不足しています。
ところが、篠山市では、行政や諸団体、さらには外部人材をうまく登用しつつ、集落の合意形成を図り、持続する地域づくりが行えました。
その鍵となる組織が「一般社団法人NOTE」。
ここに、思い付いたら、即、行動を起こす 金野幸雄 代表理事がいました。金野氏は、兵庫県職員から篠山市副市長に引き抜かれ、退職後「一般社団法人NOTE」の代表理事という経歴の持ち主です。
この「一般社団法人NOTE」は、篠山市が100%出資する行政サービス代行会社「(株)プロビスささやま」が平成21年4月に生まれ変わった組織です。それまで「(株)プロビスささやま」が実施してきた篠山市との協働事業を継承するとともに、市民社会の創造に貢献する自主事業、地域団体やNPOへの支援事業などを独自に展開していくことにしたのです。
「一般社団法人NOTE」は、地域課題に対する創造的な解決策を提供することで、我が国における農村の価値を再構築するというミッションを有し、「プロジェクトマネジメントから、エリアマネジメントへ地域課題に対する創造的な解決策を提供することで、我が国における農村の価値を再構築する」という戦略と次の6つのビジョンをもって篠山市のまちづくりをしています。
1. ノオトは、歴史文化、生活文化の息づく社会づくりに貢献する。
2. ノオトは、古民家再生、空き家活用の事業を展開する。
3. ノオトは、コミュニティベースのまちづくりを支援する。
4. ノオトは、新しいSATOYAMAづくりを支援する。
5. ノオトは、食文化創造の事業を展開する。
6. ノオトは、「気持ちが洗われるツーリズム」事業を展開する。
 
■むらづくり型RMO(ルーラル・マネジメント・オーガニゼーション)の可能性
 中心市街地活性化法で、本来、中核組織となるべきTMO(タウンマネジメント組織)の内、期待できる成果を出しているのは2割程度しかありません。その要因はマネージャーが存在しないか、能力不足の人材しかいないことであろうと感じています。
「一般社団法人NOTE」は丸山集落に欠かせない組織ですが、NOTEにとっても「丸山プロジェクト」は第3セクターから民間へ脱皮するための新たな事業興しであり、丸山集落と「一般社団法人NOTE」は、互いの足りない部分を補い合うパートナーであると感じます。
地域の活性化には地域個性を活かした内発的産業を興すことが重要なファクターですが、さらに、地域の暮らしや環境保全、食育、そして人材の確保に至るあらゆる面において、波及効果を促し、地域自立を図りながら持続させ、次世代に繋ぐ仕組みづくりが求められます。「一般社団法人NOTE」は、そうした意味で、多様な主体を吸引し、繋ぐ、「新たな公」機能を有する組織であり、なおかつ、ハードとソフト、そしてキャピタルをマネジメントするRMOであると言えます。
また、活性化構想等では、企画段階から実施に至る過程に市民協働のプロセスを導入し、地域経営の透明性と総合戦略の基盤づくりを図る必要があるとともに、地縁集団を中心に、地域間・行政間・異業種連携はもとより、NPOや地域づくり団体、さらに、人と人の「つながり」により生み出される力を結集することが不可欠です。「丸山プロジェクト」に至る過程では、平成20年から丸山集落の固有資源やコミュニティに光を与え、これらが生み出す住民のライフスタイルから、地域発意によるソーシャルビジネスを育む長期的な指針と、風土に根ざした活用計画を策定してきたことが効果を発現したのでしょう。
「一般社団法人NOTE」は、一拠点に止まらず周辺エリアの多様な資源や人材を巻き込み、交流をベースにまちやむらを案内する「ROOT」という組織がスピンアウト。さらに、伝建地区においても若者の起業などの効果発現が見受けられるなど、地域の総合力を引き出しながら住民本位の地域の相互扶助を向上させるソーシャル・イノベーションが興りつつあります。

■柳田国男の遺言
現代社会では気付かぬ間に、散る落ち葉の如く、音も立てずに、何かが崩れ去っていきます。
「昔の良いことの消失は仕方ない。しかし消失したという意識は必要である。次に、それは消えて良いものか、消えて悪いものなら、その代わりはできているか」と、柳田翁は語りました。
今、同じ質問を私たちに投げかけられたらどのように答えるでしょうか。
便利な社会生活を得るために地域に残る豊かな歴史や文化は捨てて良いのでしょうか。あるいはこれらを単なる消費観光の財に変化させることが良いことでしょうか。
それぞれの地域個性(風土)を活かした振興を考えることが確実な地域振興につながり、地域が本当の意味で潤い、農業自体も国民に支持されることになるはずであり、そのように思考すれば必然的に、何を、どのように地域で仕掛け、仕組むかが見えてきます。
NPO法人「集落丸山」の佐古田 直實 代表は、「農家民泊としての営業は、10年間を期限とした。10年後も継続するか否かの判断は次の世代に委ねたい。それまで、下地づくりを一生懸命頑張って、継続できるようにしたい。町に出ている方も、誇りを持てる地域であると再認識して、地元に帰ってきてほしい」と話します。
これと似た話を新潟県長岡市山古志で聞いていました。
「限界集落に住んで欲しいと言えないし、住む村じゃない。今は、自分たちが力を合わせ、集落を見守っている。だから俺たちがいなくなれば、次の世代や、良いと思って住んでくれる人が、ここを考えて作っていけば良い」中越大震災による河道閉塞で水没した小籠集落の松井治二区長がこう語った姿がダブりました。
集落が持続するために緊張感を維持し意識改革し続けることは必要です。現在のところ、「LLP丸山ブロジェクト」の組織はうまく軌道に乗っていると思えますが、丸山集落は、今の事業だけでなく、組織自体に10年という時限爆弾を、自ら仕掛けました。つまり、10年で自立する集落になるという将来へのリスクを敢えて作ったと言えます。佐古田氏に変わる集落リーダーが出てこない状況になれば、集落は崩壊するかもしれない大冒険なのです。
自らの地域を自らの手で滅ぼすか、100年先の未来を見据えた戦略を打つか。今、求められるのは地域の人財であり、人財をストックする学びの土壌づくりしかありません。

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