お月見の季節ですね。以前に書いたモノを転載(いい加減に新ネタをとのお叱りご容赦)します。
いわき市南西にある遠野町には「お月見泥棒」というユニークな伝統行事が残っています。
中秋の名月にススキと萩の生け花に団子や餅を供えるオーソドックスな月見とちょっと違い、子どもたちが月の出とともに近隣の家々を廻り、お菓子を好きなだけ持って行くという行事です。
この行事は近畿から東北の太平洋沿岸部にポツリポツリと残る「お月見行事」で、縁側へ飾った団子を子どもがそっと竹で刺して盗み食いしたとか、この日だけは果樹園の果物を盗み取って良かったなど謂われは諸説あるようですが、市では遠野のみの風習です。
若干趣が違いますが、他地域の七夕行事で「竹に短冊七夕祭り、大いに祝おう、ローソク1本ちょうだいな」と家の前で歌う「ローソクもらい」(青森ねぶたが発祥とも言われる)も類似の風習ですし、各家々で七夕に菓子を用意して子どもが来ると配るという「日本版ハロウィン」のような風習として残っている地域もあります。
「しばしも休まず槌打つ響き?」と歌った文部省唱歌「村の鍛冶屋」、私の小学校時代まで通りで営業しており、リズム良くトン・テン・カンと槌を振るい鞴で火を熾す様をずっと見ていたことを思い出します。今では全国でもほとんど生業として残っていないのですが、遠野町には鍬や山仕事の斧などの農具や刃物を作る鍛冶職が2軒も残っていたのです。
地区ではお年寄りが野鍛冶で作った骨組みに和紙を貼り手持ちの行燈として子どもの数だけ用意します。それを小学校に持って行くと先生たちは行事当日の下校時に子どもたちに手渡します。
学校と地域が昔からの行事で見事な連携です。これで、地場の伝統産業を子どもたちに教える機会にもなります。
さて地区の人たちは夕方うす暗くなると、今度は道路沿いに手づくりの行燈を並べ、軒下の供え物の横に菓子を山盛りにして月の出を待ちます。月が上がると、あちこちからユラユラと揺れる行灯と大きな袋を持った子どもたちが現れ、家々を廻り菓子を好きなだけ持って行くのです。
待ち受ける家は部屋を開け放してお菓子を取りに来る子どもたち待ち受けるのです。
見知らぬ子どもを見ると「どこの子だ」と声を掛けます。
子どもたちも自分が暮らす近所の家人の顔や様子が分かります。
この風習、「地域で子どもを育てよう。守ろう」と言わなくても自然と地区の大人たちとの顔見知りになり、日常の子どもの安全にも繋がり、さらに郷土愛を育む絶好の機会となっているのです。
こうした行事はツーリズムのネタとしても一級品で、子どもに限らず大人も十分に楽しめる観光メニューです。興味をお持ちの方は「いわき観光ビューロー」にお問い合わせくださいい。