ノーベル生理学・医学賞に坂口志文特任教授が選ばれた。
会見で語られた言葉の端々からは、基礎研究の重要性、そして信念を持って地道にやり続けることの大切さが強く伝わってきた。
翻って、いまの日本社会――国や地方はどうだろうか。
私たちは「基本」や「基礎」を軽んじ、目先の成果や短期的な利益ばかりを追ってはいないだろうか。
長期的なビジョンを描く力が弱まり、挑戦よりも失敗を恐れる風土が蔓延している。
その結果、未来を夢見ることさえ難しくなった若者が増えている。
教育、研究、地域の仕組み、そして人づくり。
これらの土台が揺らげば、どれほど立派な計画を掲げても、それは砂上の楼閣にすぎない。
潤沢な予算を投じて派手なイベントを打てば、人は一時的に集まる。
動員数の多さをもって成功とする風潮は、行政の自己満足であり、税金の浪費に等しい。
「何万人来た」という数字の背後に、地域の学びや誇り、暮らしの改善は本当にあったのかの検証することこそ欠かせないのではないか。
地域自治体が注ぐべき力は、金と時間と人を消費する一過性のイベントではなく、課題を正確に把握し、処方箋と戦略を同時に描くことにある。
真の発展とは、話題性のある事業や一瞬の成功ではなく、地に足のついた努力の積み重ねによってこそ築かれるものだ。
坂口氏が語ったように、「ひとつひとつ」を愚直に積み重ねる姿勢こそ、未来を切り拓く原動力となるのだ。
いまこそ、私たちは原点に立ち返り、「基本」と「基礎」を見つめ直すときである。
長期的な国家・地域のビジョンを描き、人を育て、社会全体で支える仕組みを築くこと。
それこそが、次の時代の真のイノベーションを生み出す礎となるだろう。

