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ポスト・コロナの地方観光づくり-滞在型観光の取り組み-

かつて田舎は旅人に一夜を提供することは当たり前だった。イザベラバードや漂泊僧も、ほとんどの一宿一飯であり長期滞在をしていない。
それは目的地でなかったことに起因するが、芭蕉は居心地が良いところでは長期逗留をしている。
長期滞在をした旅人は山頭火くらいだろう。
もう「農泊」しかないという短絡的な考えでなく、宿泊の選択肢を増加させたり、夜が楽しい仕組みを創ることが大切だ。
旅はある程度パターン化されているが、観光客のニーズはコロナ禍で既にその先を行っている。
当面は「Goto トラベル」の助成事業が動けば、宿泊ニーズがあった消費者の動きが出るだろう。Googleが2020年5月25日に緊急事態宣言が全面解除となったのを受け、外出自粛要請下から5月末までの検索動向の変化を発表しているが、ネット検索では「国内旅行 補助」が急上昇しているそうだ。
このほとんどが、個人で企画し手配するFIT(個人旅行者)だろう。旅行社にプランを任せる旅から明らかに転換している。
インターネットが発達し、消費者同士の情報交換が活発な今、価値観の押しつけは好ましくない。ひとたび消費者の反感を買ってしまえば、これまで積み上げてきた高評価の数々は、一瞬で崩れ去ってしまうからだ。
FIT客には何よりもストーリーが大事である。
特に若者はテーマを持って旅をする。それは一人旅だけではなく同じ趣味やサークルなどのグループも含まれ、興味関心に応じて自分でさまざまなコンセプトを設定し旅をしているのだ。だから時間やお金を使う「理由」や「価値」をストーリーとして作り込めば、若者が行動する動機付けとなる。
夜の街のイメージは落ちているが、私はかねてから夜遊べない、歩けない「まち」には観光客は来ないと言ってきた。
観光客はもとよりビジネス客でも泊まれば夕食を食べたり、飲みに行きたくなる。
その時にもし飲食店の選択肢がなければコンビニに行き宿泊施設で寂しい夜となり、ここには二度と泊まらない次は遠くても夜が楽しいまちに泊まろうとなるだろう。
せっかく何らかの縁があり宿泊した客を逃すばかりで無く「あそこはつまらないよ」というマイナスイメージが流布され、誰も泊まらないまちになって元も子もない。
この消費行動を促すには、いわゆるナイトタイム・エコノミーという、夜間の経済活動を展開することが大切だ。
私自身は次の移動地を考えて宿を取るから駅前が多い。
しかし地方に行くと夕方から商店街のシャッターが降りていたり19時にはメイン通りの灯りも消えて誰も歩いておらず、時折赤提灯があるだけの光景をよく見かける。
昭和の時代は店奥で鎮座していれば客がやってきたため、夜遅くまで店を開けておく必要もなかった。また一軒だけ勝手な営業時間としないよう一斉にシャッターを降ろすルールまで作っているケースもある。
しかし消費者の生活パターンは変わり、閉じた商店街を避け、深夜まで営業している郊外の大型店やコンビニへ移っていった。
客を減らした大概の商店街は、ますます店を開けておく理由が無くなり、早めに閉店という悪循環に入り、終いには店を閉じるところまできている。まさに今風の三密を以前から実施?してきたのだ・・・。
中心商店街の荒廃は誰のせいでもなく商店主自らの怠慢であることは疑う余地もない。
しかし諦めることはありません。手立てはたくさんある。
先ずは夜の街を明るくすることだ。
スペインのバルをヒントに函館が始めた「バル」もナイトタイム・エコノミーだ。
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函館西部地区25店舗が2004年2月より「スペイン料理フォーラム前夜祭」をきっかけに始めたバル街の取組は、全国に拡大していった。
私が訪問したときは既に13回目で、夜、楽しく歩ける仕込みは大成功していた。
バル街が展開される西部地区は、全国でもメジャーな観光地で、海に向かう坂道に赤レンガ倉庫、市電、函館山と教会ほか、明治からの古い建築物がたくさん残っている函館の代名詞のような旧市街地だ。
しかし、このイベントはもともと観光客誘致で始めたことではない。
「函館の市街地は地形上、コンパクトにできず拡散している。暮らす人はどんどん郊外へ出てしまい、いつしか旧市街が忘れ去られていった。旧市街にたくさんの古くて良い建築物が残っているが、市民もこうした資源に気がつかなくなっている。バル街の取組は、市民に街を歩いてもらって気づいてもらおうという目的を持って始めた」とバルの仕掛け人の深谷宏治(スペインバスク料理レストラン「バスク」とバルレストラン「ラ・コンチャ」のオーナー)は言っていた。P1010742バルの仕掛け人の深谷宏治さん
これだけ盛況であれば、観光客相手に毎日できないのとの質問に「目的に賛同した店も毎日、これだけのサービスをしていたら潰れる。一週間続けたら店は疲れるし市民には飽きられる。だから数日で一気に盛り上げるイベントにした。市民がターゲットで観光はその次」と答えてくれた。
つまり中心市街地が市民に忘れられることに、危機感を持った深谷さんたちが、歴史ある函館を再認識してもらおうと企画したイベントであり、「まちづくり」を仕掛けた結果が、観光客を呼び込む相乗効果を出したわけだ。

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