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地域再生のための観光とはなにか9~◇新しいものさし◇ケの観光

◇地域観光の新しい「ものさし」を創る

地方が活性化するには観光しかない!だからインバウンドの受け入れをしよう!と言う短絡的な政府誘導で、自治体は右往左往している。確かに訪日客は右肩上がりだが、あなたの町や村で減ってしまった人口の肩代わり消費が生まれているだろうか。

「人口数千人のまちでのイベントに数万人が訪れた。凄いだろう!」は、よく聞く自治体トップの自慢話だが、それは本当に住民のためになっているか?こうしたイベントに限って行政が予算を付け、日常業務に忙しい職員がフル動員されているか、イベント自体を大手イベント会社に丸投げして大枚をはたいている。

あなたの住む行政が、予算やエリアの資源を切り崩して観光商品として消費することを是とするか。

地域にも賞味期限がある。国の優良事例に載る、メディア露出が多いと賞味期限も短くなる。地域資源を消費し続けるといつかは資源の枯渇に至る。本当に何も無くなった地域は魅力も無くなる=住む人も消えるということだ。しかも地域で生じた利益の大半は、大手交通会社や旅行会社、イベント会社などの観光事業者に落ちる仕組みになっており、皆さんが身を削って受け入れをしても地域に金が残らない。

そんな観光を続けて良いか?

例えば人口3000人のまちに3万人の外国人が押しかけても大丈夫か?

10年程前に私は、ある集落の取り組みがオーバーツーリズムになりかけていたので、このままでは潰れると注意喚起したことがある。

受け入れ体勢が整っていない自治体など論外だ。トップの自己承認要求のために職員や住民が動かされるのは堪ったもんではない。

同様に最近の課題として、全国的に高齢化した地域でのイベントがあり、しかも居住者の年齢を考えれば、あと何年ボランティアが続けられるかも不明だ。商店街のイベントをいつまでも続けるように止めることが怖いとか、止めてあそこはもう駄目だと言われたくないとの理由が多いが、それほど活性化に役立っていないのも事実だ。

活性化を考えるなら、子育て世代が安心して暮らせる。若者が定住し将来も住み続けられる環境づくりであり、人をただ集めることでなく、共感してもらえるビジョンと商品とおもてなしが大切だと思う。

使う包丁によって、料理の見た目も味も変わるように、地域オリジナルの「ものさし」を作り、我が地域を見極めることが大切だ。地域の特性や環境をベースにした新たな観光経済の仕組みを作り、自らの資源価値を創造すれば、消費者が共感し成長を助けてくれるのではないだろうか。

まずは政府の観光施策に左右されることなく、人・物・金を地域内循環させるシステム”を構築し、まずは国内観光客を丁寧に受け入れてみてはどうだろう。

◇ハレ(晴)ではなく、ケ(褻)

これからはIoTだと、関係企業がVR技術を活用した観光を奨めるが、田舎は小鳥のさえずり、澄んだ空気(臭い付きはオマケ)、美味しい水と食、郷愁を感じさせる景観など既に基本のおもてなし環境がある。爽やかな空気や風、鳥の鳴き声も最新技術で再現できるだろう。しかし現場での住民の笑顔は創れない。

旅の巨人宮本常一は「旅というものは本来、自分の目で確かめてみるためにある。大事なことは、一人一人がしっかりとした目を持ってものを見る、自分の目を通して物を見るということ。本物をみるということは「あるく」以外に方法のない。自分自身が体験を持たない限り、その本物はわかりようがない。物をみるということは、外側からみるだけでなく、まず内側からみることが大事。我々は目を開いてみているが、実はわかっていないことがずいぶんたくさんある。真剣に物をみていけばいくほど、わからないことが増えてくるが、わかったと思い込むのではなくて、わからないことを確かめて、明らかにしていく、旅とはそういう場だ」と『旅に学ぶ』で書いている。

これからますます田舎の旅は、ハレ(晴)ではなく、ケ(褻)の演出が重要性を増すだろう。

そのためこれからの観光は、地域の暮らしと結びついた総合的で知的・創造的な探求と着実な実践、そして住民一人一人のホスピタリティに基づいて、初めて成り立つ。

ツアーや体験プログラムは人間中心のデザインで独自性を出すことだ。世界中探してもたった一人しかいないので、会いたいと思えばリピーターが発生する。だからそのような住民を何人輩出するかでケ(褻)の旅の成果は決まる。

ことさら環境問題を断片的に取り上げるつもりはないが、受入れる方々は少なくとも「自分たちは空気を作り、水を作り、命の源を作り、エネルギーを供給している」と自負して欲しい。

自分の仕事の隣や足下に観光ビジネスの種が落ちている。それに気づき泥を払ってみることだ。

地域住民、そして地域が健康な心身を有し、自発的に行動する環境を整えるのは自治体の責務。

行政はそれらのプロセスから生み出される新たな地域価値を、地場産業の活性化や人材育成に充てれば、継続できるローカリゼーション・ビジネスが根付き、自立する地域・元気な地域になるはずだ。

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