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コラムさなぶり1(日本農業新聞4/5)

地域再生診療所を2009年4月に開設して第4期に入る。その間、講演や指導で毎年約20都道府県を訪問し各地の実態を見聞する機会に恵まれた。診療所と言っても私は医療行為をするわけではない。多様な課題を内包する地方自治体の要望に沿って、地域のあらゆる資源を客観的に検証し、現地での協議を重ねてシナリオを書き演出するソフト面からのアプローチだ。できるだけ資金的負荷をかけない手法で地元住民が楽しく行動し、結果として自負や誇りを感じ地域が持続できるきっかけをつくることなのだ。
2011年度の業務を例に取ると秋田県由利本荘市で9施設の赤字第三セクター(ホテル・交流施設・加工施設など)の再生計画と事業実施、山形県最上郡鮭川村では、総務省が進める「地域おこし協力隊」事業の指導をしながら、環境と食をベースに都市との交流や農産加工開発と販売ルートの創出、山口県宇部市では「うべふるさとツーリズム」の創出を目標に月一回の人材育成塾開催や全国大会のコーディネートなどの業務を年間受託した。
各地の課題は様々で業務も多岐に渡るが、事例の三地域に限らず総じて言えることは、目先の事象に捉えられ行政も住民も将来ビジョンを語り合っていないことだ。
外から俯瞰すると、ほぼ同じ目的を持つ組織団体が複数存在していることが多々ある。人材や良い資源に恵まれていても、目標共有のないバラバラの取組は足の引っ張り合いを助長ずるだけで、結果として地域の総合力をまとめられない。「船頭多くして」のことわざではないが、あらぬ方向へ地域が流れてしまう情けなさ。つまり決定的に地域で不足しているものは地域の「プロデューサー」だ。首長は船長で行き先を決定するが、船主(オーナー)は住民であり、プロデューサーは船そのものなのだ。そして私は目的地へ誘う風でしかない。住民は旅を楽しむ乗客でもあるが、船賃を支払わないといけない。安価な旅を望むなら船のエンジン役になることをお奨めしたい。

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