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韓国の農業農村ツーリズム事情(3)

■韓国の農村とソウル一極集中
韓国は1960年代より輸出産業強化を国家軸とした戦略を推進しており、現在のサムスンやヒュンダイはその国家モデルと言えます。その急激な工業化は、かつての日本の高度成長期と同様に農村から若者を工場に、そして都市に引き抜きました。その結果、農村は急激な人口減と続く農産物の市場開放による価格下落で、高齢化と生産縮小が始まり国全体の農村経済基盤が揺らいでいきました。
現在の韓国の状況はご存じのとおり大変な競争社会です。小学生から全ての子どもたちは「ソウル大学」に入るための競争が始まります。他の国立大学に入るということは即ち負け組になることなのです。逆にソウル大に入ることは、上級の国家公務員や件の大企業へ就職できる権利を得ることで、その人の人生を保証されることになるのです。そのため子供を持つ地方の親はソウルへ引っ越すという最初のアクションが出ます。ソウル大というヒエラルキーの頂点へ向けた過剰とも思える受験戦争の姿は、白バイやパトカーが受験生を乗せて試験会場へ走るとか、親は水ごりで神様に祈り、試験会場付近でお守りを持って念じる親たちなど、時々テレビなどで紹介されますから承知の方は多いでしょう。
この大学受験までに若者はソウルに集中し地方から姿を消してしまうわけで、日本と比較にならないほど受験戦争は過酷で、かつソウル一極集中が起きているのです。
こうしたことから農村へ帰り農業を営むということが、負け組の最下層で位置づけされてしまっています。これでは地方が、農村が疲弊することは当たり前です。

■韓国のグリーン・ツーリズムと移住・定住施策
韓国の食糧自給率は大型の専業農家育成へ舵を切った1990年代から急激に下がり始めました。大規模農家は増えたものの都市のサラリーマンとの所得格差もどんどん広がり農村総体としては貧困化しつつあるのです。ここにFTAが3年後導入されたらどうなるでしょう。韓国農業を支える専業農家は大規模にするために大きな負債を抱えました。そこに直接打撃を与えたら専業農家は保ちませんね。
農村政策は日本のように多様な農業形態でなく、一つの村に一つの特産品を作り込んでいく政策です。たしかに農業の効率は良く、競争産地がコントロールされているため国内での販売に支障はないと思われていました。ところが関税障壁が徐々に解除。更に米韓FTA(自由貿易協定)の締結で農村はますます自立困難な岐路に立たされてしまいました。
一品目しか特産農産物として振興できない韓国の農村。たとえば今回視察したりんごを振興する農村と米国の輸入リンゴがぶつかったらどうなるだろう。韓国はFTAのために保護ができないのです。大物量で安価なリンゴが韓国中を席巻するわけで、小さな農村一つでは太刀打ちできません。このような危険な農業政策を韓国は進めてきてしまいました。
これによく似た政策が「一社一村運動」ですね。これもFTAにより障壁撤廃され競争に負けた韓国企業が支援している農村は、企業からの支援を絶たれてしまうわけです。韓国はサムスンや現代だけが企業でなく各農村の支援は地方の金融や保険などの企業も行っているのです。今回の訪問地、聞慶市は新韓銀行と一社一村運動の協約を締結しています。
他国の政策を批判しても仕方ありませんが、多国間貿易に75%を依存する韓国の国家戦略とすれば農業農村は切り捨てても輸出産業を保護するのでしょうが、これに日本の農村の姿を重ね合わせてしまいます。
農村観光政策は「農漁村発展特別措置法」及び「農漁村整備法」により農業・農村観光を進めてきました。その中心が「観光農園」という拠点整備で、しかも華美な大型投資を行ったのです。これはかつて日本の構造改善事業の末期に行った「○○村」によく似た政策でした。しかしこの農村観光施策は農村テーマパークの色合いで地域住民と隔絶した収益構造であり、住民の所得向上をもたらすものではありませんでした。日本で農村リゾート開発が叫ばれ失敗したことを教訓としていないのは、台湾の農村もいつか来た道を辿っており、日本を手本に追いかけるアジア諸国が同じ轍を踏んでいることにやるせなさを感じてしまいます。
韓国政府はこの状況を打開するため、農山村の文化や生活、環境といった多面的機能を活かしたグリーン・ツーリズムを農村活性化の柱に据え、行政自治部の「美しい村づくり事業」、農林部では「グリーン農村体験モデル村」、農村振興庁が「農村伝統テーマ村事業」環境部でも「生態優秀村」など政府の各部署が都市との交流を推進しています。
 農林水産省が「グリーン・ツーリズム」環境省が「エコツーリズム」観光庁が「ニューツーリズム」厚生労働省は「ヘルスツーリズム」経済産業が「ヘリテージツーリズム」とバラバラな予算付けを行い連携しない日本政府に似ていますね。

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コメント / トラックバック2件

  1. 金澤睦司 より:

    北海道にて観光農場に勤務して10年になる者です。近年、韓国からの農業視察、特に『食育』『ふれあい』方面への要望が多く受けいれを行っております。対談的に話を進める最後には、コンサルのようになるのがたびたびで、現地韓国での事情はを知りたくなり本HPをみかけました。

    • crc より:

      金澤 様
      返事が遅れ申し訳ありません。
      拙文をご覧いただきありがとうございます。
      ひとつお気を付けいただきたいのが、韓国は国策で、あっという間に日本の良いところをパクって追いつけ追い抜けと始まります。
      あまり懇切丁寧に教えると盗まれますよ(笑)
      韓国内の農産物マーケットで日本産をジワジワ閉めているのは、間違いなく米韓FTAの悪影響と判断しています。
      しわ寄せを日本に持ってくると言う韓国内の政治問題を外へ向けさせる相変わらずの状況ですね。
      韓国や中国へ攻め込むなら木材が今、一番有力と思います。
      ではこれからも頑張ってください。

コメント 金澤睦司

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