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改正基本法で本当に日本農業を守れるか(3) 農村RMOで農村再生する(週刊農林掲載)

全国で祭りどころか、毎月の寄り合いもできなくなったと嘆く農山村が拡大している。 
 縮小する日本社会では、何から何まで満腹を追い消費を促した「密の経済」は通用しない。
右肩下がりの社会では、家庭だけでなく、地域も様々なダウンサイジングを企図し、生き残るための新たな仕組みやビジネスを興していくことを目指さないといけない。
その点で農山村は「疎」であることが武器となる。これからは適度な「疎」を保ちながらも以前と同様の収入を得る「疎の経済」を構築していくことが重要である。

資源自律戦略のかなめ

持続する農村は地域それぞれの風土が違う。もともと「むら」は地域で成り立ちも考え方も違っているからだ。
ところが自主的な地域経営のあり方を提案する政府の仕組みと現場で齟齬が生じている。
異なる価値観に対してステレオタイプの農村づくりは国の正当性はあっても、特徴を失い社会を崩壊させる。
複数集落で農地保全や農業を軸とした経済活動、生活支援などを手がける組織としている農村RMOの取組は、農村コミュニティの地域発意を基本にした戦略とし定式は存在しないので自由な構想が可能である。
住民の誰にとっても明白で信じることができる組織が正解であるが、根底に地域が持つ資源で経済自立し、持続する農山村を目指して欲しい。
田舎の資源には自然と共生して暮らす経験や知恵もある。 業務は地域のサイズや力量に応じた相対性な取り組みで、かつ広域でまとまり全体をリードしていくことが肝要である。

改正基本法でのRMOの展望

日本は過去の栄光に囚われ抜け出せていない。だが輝ける未来の種は農村に残っている。
人口減少が止まらず不安定な経済状況では現状維持すら難しく嵐が過ぎ去るのを待っていても好転しない。活気のない地域には人は集まらないどころか人は逃げ出す。時間の経過で地域も人も錆び付いていく。
 民との協働とかパートナーシップという言葉のみが先行し、地域づくりは行政一人勝ちか、首長のトップダウンの傾向にある。
集落に目を向ければ「自地域の課題を自ら考え行動し解決する」ことが、重要な時代であるにも係わらず実態は集落や旧村単位のリーダーが不足しており、手をこまねいている。(図1)は農水省が施策とする前に提案していたものだ。
集落再生を図る上で地域農業の要として、様々な悩みを解決しようと企図したものだが、農村コミュニティ自体の要としては考えていない。ただしこの組織が動き出せば結果としてコミュニティに多大な影響を与えれば良いとしていた。

農水省が掲げるRMOは地域運営組織として、かなり公益的任務を課している。必要であることは理解できるが、公益部分の運営資金や人材が必要である部分をどう解決するか。
RMOに公益的任務を担わせるほど運営に無理が生じ、自立自走するには困難がつきまとうのである。

地域のプロフィットセンター

RMOは、コストセンターになってはいけない。あくまでも利益を生み出す組織として、地域の利益を最大化するミッションを有するプロフィットセンターでなければならない。
そのために地域発意のローカル・ビジネスの創業・起業が育つ環境づくりを進めることが求められる。
 ゆえに政府に対して数点の要望をしたい。
・国連の「小農宣言」に批准し、日本農業らしいイメージアップを図る施策を展開する。
・農場から食卓まで戦略を掲げ、一気通貫の流通販売を行う農業者育成やプライベートブランドの確立を支援する。
・人口が減少しても農村を維持できる「縮小発展型」の農村ビジョンの策定支援を行う。
農業農村には日本が捨ててはいけないものを防衛する最前線にいることを理解願いたい。

地域農業システムを回復する

大手資本には資金や知財、人材など太刀打ちできない。
農村の諸課題を打破するには、農村自らが大都市を上回る「良さ」を作り上げることだ。
そのために助成金を貰おう程度の組織ではなく、バリューチェーン、エコシステムの構築という「しつらえ」を創造し、その競争環境を変え、地域の促すような一次産業をベースとした新たな需要を呼込むことだ。
組織の核となるマネジャーは、どれだけ予測不可能な事態が待ち受けていようとも、再生への道筋を描き、豊かな実りを収穫し続けるスキルの習得がRMOリーダーに不可欠だ。
自治体は農村型地域運営組織をコントロールするのではなく、大局的な視野から組織に寄り添い、新しい「価値」を生み出す支援を願いたい。新たな価値創造はコミュニティ内の関係性の中でしか生まれないことを認識しておくことが重要だ。
地域農業システムの再構築で、農村にプラットホームを創れば、人が自然と集まり、知的生産性が高まる場となる。
多様で大量な情報に触れる消費者に対して、意識や行動を農村現場に向けさせることができるかは、RMOの力量に掛かっている。

意識変革を図る地域デザイン

昨今は担い手不足もありスマート農業が登場した。憧れの農業としても労働環境が3Kすぎたら、農業人材は集まらないことは理解できるが、農業DXで工場生産のごとく命の素が生まれる。
コロナと言う厄災で、消費者の日常レベルの意識や行動が変化した。それに合わせて社会全体の製品やサービスの提供スタイルが変化している。
ゆえに農業生産並びに地域住民のライフスタイルも変化しなければいけない。
そこには農業農村の「しつらえ」に通底する「哲学」が必要である。
例えば確固たる差別化意識を持って、環境保全型農業を全面展開すれば、その先進性をブランド化できる。その差別化要素を好意的に受け止める顧客がいれば、その地域の産品を購入するだけでなく、訪れたい願望も出てくるだろう。
その際、産直販売所などは農家のメッセージを発信する場として最適だ。
農村のDX(デジタル・トランスフォーメーション)も良いが、HX(ハートフル・トランスフォーメーション)も大切となるはずだ。

ハートフルな農村を目指す

大手資本に振り回される観光は、地域に限定的な経済効果しか発現しない。ゆえにインバウンドを当てにする農泊を過信することは危うい。
農泊は多くの人たちと交流し、学び合うことを基本に、人間として生きるための環境や文化を保全し、様々な課題を解決する有効なツールとして、地域に生み出すメリットは図り知れない。
新規就農や移住定住でも大切なことは、地域社会や農家との接点、その交流の場があることが第一条件となる。
朝テレビのニュースを見て出勤中に新聞や広告を見る。日中はWebで情報収集、帰宅後はSNSや各種Webメディアで新たな情報を得るのが、「いつも変わらぬ行動導線」の消費者であり、この行動導線から漏れる情報は無いに等しい。
農産物の生産と農村の営みの根本部分を物語化し、リアルでハートフルな交流を演出することが求められる。
皆で火を囲み「ぬくもり」を分け合う温かな農村社会こそ地域循環社会の未来ではなかろうか。20240617_151118[1]

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