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コミュニティ・パワーで持続的社会の構築を

冬本番になりつつある今日この頃。政府は冬季のエネルギー不足を懸念し、今年度12月1日から3月31日までポイントを付ける節電を呼びかける。政府の節電要請は質素倹約=美徳という日本人の感覚に訴えるだけで、どうにも空虚に響くのは私だけだろうか。
大都市の電力はどこから供給しているか?
大都市の食物はどこから供給されているものか?
大都市の水源はどこから供給されているものか?
この根本を忘れて、都市は人々の生活や経済活動の場を提供する我が国の活力の源泉である、だから都市の魅力を高め、資本や人材等を呼び込むとする考え方をそろそろ変えていただきたい。
都市を享受するのは結構だが、地方があってこそ都市は成り立つ。
世の中がボーダーレス化する現在、地方再生を的確に推進していくことが、国民生活の安寧である。ゆえに地方のレジリエンスが極めて重要なのだ。
■持続可能な地域エネルギーシステムの構築
世界ではロシアのウクライナ侵攻による石油やガスの供給が不安定となる中、新たなエネルギーとして、そして炭素中立社会への転換を図り、持続的社会へ向けた新たな産業として雇用を生み出すと期待されているからだ。
地域はいま、産業・雇用の基盤の不安定化で若者が地方を離れ、地域コミュニティを支えてきた担い手が少子高齢化に伴い弱体化している。
このような状況を打開し、持続可能な社会を実現するために、地域自らの創意工夫による再生可能エネルギー事業の展開で、エネルギー分野のトランジションが起きつつある。
自律分散型エネルギーシステムを核とするコミュニティ・エネルギー事業は、地方経済を牽引する強力な武器になるだろう。
この「コミュニティ・パワー」の三原則は、
①地域の利 害関係者がプロジェクトの大半もしくはすべてを所有している、
②プロジェクトの意思決定はコミュニティに基礎をおく組織によっておこなわれる、
③社会的・経済的便益の多数もしくはすべては地域に分配される
この3つの基準の2つを満たすことが「コミュニティ・パワー」として定義されるという。
気候変動による頻発する災害のほとんどが地方だ。地方が持続可能な社会となるには、地域の環境づくりが不可避な状況なのだ。
コミュニティ・パワー事業には産学公民の多様なステークホルダーが事業に関わらないといけない。
■地域公共再生可能エネルギーの活用
 長野県飯田市が2013年から制度化した「飯田市再生可能エネルギーの導入による持続可能な地域づくり」条例は、市民が主体となり区域の自然資源を環境共生的な方法で、再生可能エネルギーとして利用し、持続可能な地域づくりを進めるものだ。
条例の根幹に「地域環境権」(市民は再生可能エネルギーを利用した調和的な生活環境の下に生存する権利)を有する。とする全国でも初の試みであった。
2004年に飯田市が先導して設置した「おひさまエネルギーファンド(株)」から始まった地産地消エネルギーを創り出す「屋根貸しソーラー発電」事業で軌道に乗せた経緯もあり、さらにそれを住民自治と繋げる事業に発展させていったものだ。
本条例を制定した背景は、エネルギー自治で持続可能なまちづくりを推進するもので、地域や市民生活に密接な関わりを持つ日光や森林、河川などの自然資源を再生可能エネルギーとして住民自治の力を発揮する場づくりをすると想定したのである。もちろん地区特性からマイクロ水力発電を行った地区もある。
基本はまちの電気屋さんがソーラーパネルを設置し、自治区と協定を締結。売電収益の一部を自治区がもらい、紐付きでない自由な金として地区の課題解決を図るものだ。
活用事例では地区の公民館や学校、保育園などの公共施設の屋根でソーラー発電し、それで得た資金で公園づくりや祭り文化の保全などに活用している。
面白いのはピザ釜と「週末居酒屋」を開店したところ、他地区からも飲みに訪れたり、中学生が生徒会長選挙でソーラー発電を公約し当選。地区のPTAや自治会など巻き込み、中学校の環境教育や地域活動、さらに災害時の非常用蓄電所を設置するなど、生徒でも発案した事業が認定されている。まさに声高にSDGsを叫ばなくても、自然と実践に至る柔軟な事業設計は飯田市ならではとも言える。
中学生の発案では飯田のまちづくりの原点である「リンゴ並木」を思い出すが、行政や市民を巻き込む力が脈々と受け継がれているのかもしれない。
重要なのは、行政があくまでも市民をサポートする側に回りながらも、単なる助成事業でなく市民と創発に対し、事前の環境整備を行っていることである。つまり本来の自治である「市民が考えて行動する」ことを第一に考えているのだ。
この仕組みで年間7000万円余の経済効果が発生しており、環境がビジネスになることを証明している。その果実がローカルコミュニティの暮らしを向上させる事業に振り向けられており、地域づくりに昇華させていることに注目していただきたい。

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