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週間農林連載中ー共感・協創の農村づくり(6)

6.共感の風土ツーリズムを仕掛ける
農村で吸う空気や景観、感動する体験に加え、温かな人々の笑顔と無垢なもてなしはプライスレスだ。
これだけで温かい地域との好印象を訪問者は持つだろう。
だから一部が頑張るだけでなく、地区住民による丸ごとの「おもてなし」が大切となってくる。
■風土を最大限に活かす「風土産業」-資源は脚下にあり-
コロナ禍により世界で経済活動や人の営みが制限されたが、皮肉なことに地球温暖化のブレーキとなった。風土産業は環境の世紀、そしてアフター・コロナの時代にもっともふさわしい理論である。
環境保全やエコロジーが叫ばれる現代、ローカルは最もエコである。地産地消が進めば、遠方まで物資を運ぶ必要もなく流通におけるCO2削減となるのは明白だからだ。
ことさら環境問題を断片的に取り上げるつもりはないが、「自分たちは空気や水を作り、エネルギーを供給している」と農村は自負しても良いのだ。
環境保全と気候変動への対処だけでなく、包括的で持続可能な経済成長をはじめ、雇用創出や資源効率性、文化的価値、多様性と伝統への配慮ほか相互理解や平和と安全保障と多様な貢献が期待されているSDGsだが、農山漁村は悠久の歴史文化を繋いできた里地・里海・里山で多様な思想や技、人を紡いでおり、それぞれの地域の歴史、文化、生業の暮らしは、どこにも真似できないオリジナルの風土資源である。ゆえに元々有している地域特性をベースに、地元の風土を最大限に活かす「適地適業主義」を目標とすれば、これからの新たな農村を再起動させる最大の武器となるはずであり、SDGsと合致する。
例えば、集落の高齢化率100%で、かつ百歳を越える方がいれば地域資源の塊だ。高齢者ばかりで困る、何もできないのではなく、長寿の要因であろう食べ物や暮らし方の話を聞きたい、知りたいとなり、同じ暮らしをしたいと思う人も必ず顕れるだろう。とは言うものの現在は、最も重要なコミュニケーションが感染要因とされる。高齢者が暮らしている農家民泊の受け入れは、相当なリスクマネジメントが必要だ。
大平01
■風土(フード)ツーリズムのすすめ
国内旅行者のみならず、訪日外国人が期待する食の素材と文化の両方を有している農山漁村では、巨大な観光施設や世界遺産がなくても、十分に観光客に訴求する。
私が10年来提唱している『風土ツーリズム』は、食を中心に地域の文化歴史や暮らしなどを行う取り組みに『風土マイレージ』の思想を加えたものを提唱している。
風土マイレージは、同じ経済圏で、関連する文化・歴史を辿ってきた地域を前提に、その地域風土の資源を活用し、循環させ次の世代に繋ぐことを可能とするエリアを想定しており決して他所からの輸入はできない。
既存の観光資源が少ない市町村でも、同一の歴史的圏域であれば、食をベースに連携をすることで、望む人々に対応することが可能となる。農山漁村の最大の武器は、海・山・里の自然に加え、「生産の美」を創り出す景観、そこから生まれる独自の食文化と深い歴史文化だ。
アフター・コロナのツーリズムには、自然・文化だけなく教育・生命・健康など、極めて多様な観点からの総合的な探求が欠かせない。
これはまさに地方の暮らしの根本部分が観光となることを意味している。
旅人が地域のコアに触れる機会をどのように、旅の中に忍ばせることができるか地域をスマートフォンに例えてみよう。本体(地域)は基本動作(風土)をするもので、地域哲学のプロダクト・アウトをする。そこに個人の好みのアプリ(宿・食・体験・土産品など)をマーケット・インの手法で組み込み、地域をオープン化するという考え方だ。
旅人が自ら多様な楽しみや滞在方法を選択できれば、多彩な観光の組み立てもフリーになり、自分でオリジナルの旅を創ったという達成感を旅前に獲得できる。そして現地での経験が自分の想像どおりか、もしくはそれ以上であれば、さらに満足感を得ることになるはずだ。
ゆえに風土 (Food)ツーリズムの魅力づくり次の5点で総合的に考えていただきたい。
1.食に関わる素材を発見・発掘する
・地域が有する食に係わる素材をリスト化・データベース化する
・地域の食に関する情報ネットワークを整備する
2.活用する食材を選択する
・地域・旬・量が限定の食材を活用する
・地域のキャッチイメージとなる素材を活用する
3.「食べる」魅力を高める
・地域独自の調理方法や地域らしさを感じさせる提供方法を工夫する
・観光地での食の選択の幅を広げる取り組みを進める
4.「買う」魅力を高める
・食に関する消費形態にバリエーションを持たせる
・素材は一つでも加工で工夫できる
・販売方法を工夫する(ストーリー化など)
5.「食を体験する」魅力をつくる
・農林漁業のリアルな(ほんもの)体験を提供する
・食べ方・文化など付加的な体験を提供する
これらを密に連携しながらツアーを造成することが望ましい
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■フードツーリズムは農山漁村の得意分野
「ラーメン・そば・うどん」や「 B 級グルメ」は、地元が思っているほど旅行者は満足しておらず「地方食材を用いた料理」のほうが旅行者の満足度は高い。
多様な食材があり、その場所その時にしか無い「本物の食材」を出せるのは農山漁村しかない。だが「ベタベタ」な田舎料理でなく、むしろインスタ映えするようなエンターテイメントが求められる。もちろん美味しいことは絶対条件となる。
風土ツーリズムの理念は『ガストロノミー・ツーリズム』の概念とよく似ている。スペインのバスクで1998年に始まったガストロノミー・ツーリズムの概念は、「その土地の気候風土が生んだ、食材・習慣・伝統・歴史などによって育まれた食を楽しみ、その土地の食文化に触れることを目的としたツーリズム」である。生産地の風土から食文化まで幅広く、多様な楽しみや滞在方法を選択できる旅で、滞在期間の長期化による消費額の増加も見込まれ、多くの関係者への利益配分ができることが特徴といえる。
旅先での食事は、ビジネスであろうとプライベートでも「◯◯に行ったら◯◯を食べたい地酒を飲みたい」という願望を旅行者の有している。地域ならではの新鮮な素材や美味しい料理が食せるのであれば必然的に旅の目的として成立する。パン一つでも1-2時間の労を厭わず訪問することを見れば当然であろう。
うどん県を標榜する香川県でも、地域ごとに出汁が違う。瀬戸内海の「いりこ漁」が盛んな観音寺市では「いりこ」単独ベースの出汁だが、高松市に行くと「鰹+いりこ」がベースとなる。全国の「ご当地うどん」も、小麦粉を使用する点では同じだが、各県で開発した小麦も相まって香りや麺の太さ、硬さ、形が違う。つまり同じ素材でも「ところ変われば品変わる」のが、地域における食の醍醐味でありツーリズムの核となる。
現在、地域の豊かな文化や景観、生活風土だけでなく、食の安全・安心や健康が新たなツーリズムの価値として見直されている。これからは食をキーワードとしたディープな日本を求めるツーリストが増加してくるだろう。
■心に響く「食」コミュニケーション
 飢饉の時代、蕎麦を食べていた山村に餓死者はいなかったと聞く。

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エネルギーとなる糖質は米と対して変わらないし栄養価も豊富な上に、山菜にキノコ、川魚や獣肉と米が無くても山中は本当に豊かだった。ゆえに「椀貸伝説」が各地に残るのは必然なのである。
旅人は自分の日常でない景観や言葉、食べ物を求めてやってくる。見たことのない街や邑の景色に驚き、違う言葉で異国を感じ、初めての食に感動するのだ。
メディアの情報は消耗度が激しく、長蛇の列ができた人気店も、一年も経過すると祭りの後で客が消えている。
農村も同様で、リピーターを増やせるような魅力を創ることしか生き残る方法はない。
地域で愛されるソウルフードは、外の客をターゲットにしてきたものではない。地元客は普通と思うだろうが、出身者は一口食べただけで子ども時代のことなど走馬燈のように駆け巡る。味と共に、自分の生きてきた歴史や地域、家族、恋人かもしれない。つまりソウルフードは個々の想い出の塊であり、そこに旨い不味いは関係ないのだ。
訪問客はその想い出はなく、何も言わなければ、純粋に旨い不味いだけで判断する。あなたが懐かしく美味しいと感じても通じない世界なのだ。ゆえに食材や料理だけで訴えかけるには限界だ。この限界を突破するには、料理する人の魅力アップと語り、素材のストーリーが重要だ。地酒を熱く語れば必ず呑んでくれるだろう。それは背景の物語や語り部に「共感」したからだ。これが訪問者の地域シンパシーに繋がり、リピーターやサポーターとして農村を応援したいとなる。まずは良い所しか見せないPRではなく地域課題まるごとを開放してみてはどうだろう。

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