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週間農林連載中:共感・協創の農村づくり(7)

農村RMOは中山間地域の切り札になるか
宮本常一は地域の貧困をみて、観光開発と地域開発を結びつけることはできないかと考えた。その観光開発とは中央資本による乱開発ではなく、地域に住む人々から自発的に湧き上がる受け皿づくりのことであったようである。
新しい社会デザインは、地域の暮らし方の価値創造である。経済のスケールメリットではなく、自然や食、文化の多様性から暮らしを享受する「暮らし方」を内外に伝えていくことが重要だ。
■農村プラット・ホームの重要性
全国の農村地域は、それぞれ固有価値財を持っている。その固有価値財を無始して、どこかの優良事例を真似ていると必ず限界が訪れるだろう。
残念なことだが、その失敗事例に観光庁が旗を振っているDMOがある。
金の匂いを嗅ぎ取った都道府県や自治体は、旧態依然の観光組織の看板を掛け替えたり、新規組織であっても地域の幅広い分野(従来の観光事業者ではない)を参集できない、組織財源が脆弱、プロパーの専門人材を確保できないなど、国が目論んだ受入体制の整備やコンテンツ開発、人材育成といった業務をおざなりにしていることだ。
ある広域DMOでは、複数の市町村から出資を受け組織を設立。参画した市町村は設立出資金を始め毎年、負担金を納入しているという。組織のスタッフは数名の正規職員と行政からの出向職員の寄せ集めで、ただ動画などの情報発信ばかりが走り、毎年の負担金はプロパーの人件費と広告宣伝費に費やされ実行力にはほど遠い状況だった。
その目的がどれほど崇高であっても、運営費の大半が人件費と情報発信では、DMOにも金は残らず登録後、ずっと赤字が続くのは自明の理である。出資した自治体やDMO職員も公益組織だから儲けなくて良いと考えているかもしれない。
たしかにプロモーション活動は組織トップも喜ぶ派手さもあり、顧客に認知されていない地域にとっては重要な事柄だろう。しかし一番大切なことは、具体的に観光客の増加が図られ、地域の利益が確保されることだ。
ゆえに自分の地域でどのような受入ができるか、どのような資源や人材を有しているかを把握することが重要だ。
受入に必要なハード・ソフトのインフラ整備も、できていないと客とのギャップが生じさせ、住民の暮らしを脅かすことになる。地方自治体では観光をメインに、地域ブランディングや移住・定住と、多くの役割をDMOに期待し押しつけた感がある。
次に農村RMOに様々な課題を押しつけてくるかもしれないが、あえて受けようではないか。今のままでは農村の活性化や移住・定住も遅々として進まない。これからは地域に誇りを持ち、より良い地域を次世代に繋ぐ理念をRMOに埋め込むことだ。
■人は人でしか磨けない
DMOの成功例では、外部から人材を誘致したり、行政サポートが行き届いていることだ。
農村RMOでは何かを一緒に創造するために、多様な主体が手を繋ぐDH(デスティネーション・ハブ)であることが重要だ。
しかし決定的に地域で不足しているものは地域の「プロデューサー」だ。ゆえに組織の要となる人材も決定的に不足している。農林水産省も人材育成が重要であると捉えているが、いずれにしても組織ありきでなく、人材誘致や地元人材の育成を図る「稼げる組織」を目指して欲しい。
RMCのリーダーは組織の要石である。組織の成果の全権がその両肩に乗っているばかりで無く、農家個々の思いや夢のパズルを組み合わせ大きな画を描くプロデューサーでなければならない。もちろん周囲の仲間や地区内外の方々に支えられて初めて良い仕事ができるが、それは他力本願ではなく、自身も努力しなければ成果は得られない。
人口減や高齢化など喫緊の問題の中で、短期スパンの稼ぎだけでなく地区に何が必要で、何を優先順位とするのかを整理し、具体的な事業として実践していくことだ。
住民や地域の産業振興に関わる方々や関連団体、さらに教育や福祉に関わる人たちとも地域課題について考え、能動的に行動することで選択肢が拡がるだろう。
農業振興の求めだけで、自分が旗を揚げ突っ走るのではなく、地域で共に夢見る住民に旗を持たせ、実践では横から寄り添い、裏から押し上げることが大切なのだ。
■「むらづくりRMC」のすすめ
2012年、私は中山間地域農業の高齢化や担い手不足、さらに地域の祭りも危ぶまれるコミュニティの衰退を垣間見て「むらづくりRMO」と言う言葉を創り、農林水産業農村振興局に提案していた。この「むらづくりRMO」は地元固有の自然や景観を活かすことや、特産品などの供給システムを支援すること、伝統に根ざした建物を活かす、そして食文化と結合した固有価値財の発展を基礎に「現地での消費と生産の一体化」を目指すことだった。
むらづくりRMO1
ゆえにRMOは地縁集団を中心に地域間・行政間・異業種連携はもとより、NPOや諸団体、さらに人と人の「つながり」に協働のプロセスから生み出される力が不可欠となる。そこに地域の社会福祉水準の向上や地域力の増進、創造的な環境の創出などの新たな方向性も包含されていると良い。
農村地域のプラット・ホームは、地域を守り発展させるための必要不可欠の組織である。しかし柱も危うい急こしらえの建て屋では、ちょっとした社会変化のそよ風で倒れるし、護送船団のお祭りワッショイでも、とうてい農村に利益は生まれない。
そうした点から筆者はRMC(Rural Management Corporation)を奨めている。
RMCは農林業振興だけでなく、福祉や子育て、教育など農村の暮らし潜む様々な課題を解決する組織として機能することが望ましい。地域の担い手問題でもこうした組織が正しい活動を展開すれば解決の道は見えてくる。地域住民を当事者に、地域のあらゆる素材を結集して課題解決を図る組織をRMCと考えても良いだろう。
こうした広範囲の公的任務をこなし、かつ稼ぐなど絵に描いた餅で、現実には不可能と言う方もいるだろうと想像できる。疑問もあるだろうが、行政依存や補助・助成金依存から抜け出て農村が自立することを大切だと考えているからだ。
RMC組織のベースは、数パーンが想定される。1つは昔のムラ(集落)で寺の鐘が聞こえるエリア、2つ目は旧自治体(旧小学校区)、3つ目は現自治体の「地域」であろう。小さな自治体は歴史を共にした地域を結び、各自治体に不足するものをカバーする連携型が望ましい。
いずれにしても全国の農村の成り立ちから風土、何よりもそれぞれの農村が有する武器や地域の状況は違うので、RMCの設置では運営財源を含め、目指すべき将来を考えてローカルからコレクティブインパクトを起こす柔軟な形態を考えることが大切である。
■地域に暮らす多様な主体を繋ぐ
農林水産省ではRMO組織の運営者として、地元JAを農家の利益団体と位置づけ、その役割を果たすよう「令和2年食料・農業・農村基本計画の具体化に向けて(中間とりまとめ)」で望んでいる。
だが筆者はJAがその能力やノウハウを有していないため、形骸化した組織になりかねないと危惧している。農山村で真っ先に撤退していった「JA暮らしの店」や支所、ガソリンスタンドなど実態をよく見れば分かるように、組合員のためのJAが組織存続のための総合商社支店になっているからだ。JAでこの論に反対な方はぜひ意見をいただきたい。
RMOは農村地域に埋め込まれたニーズやウォンツを掘り起こすなかで、地域経営の理念を共有し、その基盤づくりを進めるため、農家や地区民と産・官・学・金を結びつけ地域の「共創の場」を構築していかなければならない。
RMOは多様な産業との結節点をつくる使命がある。そのために農家だけでなく地元住民の人と人が紡ぎ上げる関係づくりや他産業の協力関係構築、地区と地区が連携し合う関係づくりを積極的に仕掛けることが責務なのである。
ある地域での『地域ポテンシャルは何だ』というワークショップでのできごとだ。地元の方と学生が二人一組で協議し提案するものであったが、学生は短期滞在であり中身は従来の観光拠点やイベントネタしか出てこなかった。地元住民が一緒だから、きっと「あれやこれやの地域資源」を教えるかと思ったがそれも皆無であり、住民も顕在化したモノしか見ていなかったことが明らかとなった。さらに残念なことにもっとも大切な地域ポテンシャルである「ひと」の視点が、すべてのグループで欠けていた。「ひと」がいて「なに」を「どのように」するかの視点を欠いて「だれかがやるだろう企画」をしても妄想にしかならない。
RMOは農村のオリジナルを最大限活用した商品の開発や農業そのものの価値創造を可能にするものだ。多様な価値観を誇りにした地元の方々が、様々なモノやコトを提供する中間支援組織として機能することが大切である。今こそ、暮らしの中にあり、未来に収穫できる「ほんもの」の種をたくさん蒔こうではないか。

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