昨年まで地方が活性化するには観光しかないと短絡的な政府誘導により、地方自治体は右往左往した。確かに訪日客は右肩上がりだったが、我がまちで減ってしまった人口の肩代わり消費は生まれただろうか。
本当に観光客の増加は住民のためになっていたか。
イベントを打つことが行政の観光振興と勘違いしていなかっただろうか。
大手イベント会社に丸投げして大枚をはたいていた自治体など論外だが、行政が予算を付け、日常業務に忙しい職員がフル動員されるケースが全国で見受けられた。
トップの自己承認要求のために、職員や住民が動かされるのは堪ったものではない。
今回のコロナ禍でそうしたイベントが全て中止となった。
これは見直しの大チャンスだ。
「なぜこのイベントを立ち上げたか」という本来のビジョンを見失い、イベント実施が目的化した本末転倒に気づいていなかったからだ。
全国的に高齢化した地域のイベントで、居住者の年齢を考えると、あと何年ボランティアが続けられるかとの不安も聞いた。
事実、昔から続けているが、イベントの目的は不明なままで、疲労困憊している場面に何度も遭遇していたからだ。
国を始め市町村に至るまで、『観光客数』の増減で一喜一憂しているが、大切なことは客数ではなく、観光振興によって『いくら金が地元に落ちたか』『何人が食べられているか』が重要だ。
実態と異なる観光統計値を素に絵空事の計画を立てても意味が無い。
ポスト・コロナでは、地域は目指す観光の理念を再討議して、目標設定や評価指数の見直しを行うことは必要となっている。それも全国のどこにでもあるような骨抜き計画ではなく、独自の実行計画を早急に立案しなければならない。
住民生活と直結する市町村は、住民の暮らしを犠牲に強いる観光ではなく、住民の暮らしの向上を図る施策実行である。
具体的に言えば観光客が増加したことを喜ぶのでは無く、これで住民の「腹はふくれたか?」「生活が向上したか?」「地域環境は改善されたか?」の達成で喜んで欲しい。
簡単な話だが、1万人の訪問で100万円を落としてもらうのではなく、1人で100万円を落としてもらえれば、オーバーツーリズムにならず、地域の生活環境に負荷をかけない。
これは客の質の向上だが、もう一つ地域に負荷をかけない「観光客の分散」を広域圏域で仕掛けることだろう。
ゆえに観光のKPI指標は安心・安全な旅が提案できているか。地域の資源をフル動員した良質の旅を提案しているかなど、質の向上を成果目標に変えることだ。
またノウハウやアイデアといったソフト、人材の域内調達率も指標となる。
国内観光はアクティビティやヘルス系、農林漁業体験の他、パケットリスト体験、聖地巡礼などの『テーマ型観光』がトレンドになりつつあった。しかし大手エージェントでは地域が有するコンテンツを知らないため画一的になりやすい。
いま、旅を経験してきた方々は旅行に出たくてうずうずしている。予断は許せないが夏休みに向けたコンテンツはしっかり作り込まないといけない。
ソーシャルディスタンスが日常になった以上、団体旅行の復活はまだトンネルの中だ。当面は宿泊場所や見たい場所、体験したいことを自分で情報を集める個人手配の旅が主体となる。
地域には農林漁業をベースにした良いコンテンツは存在しており、観光客のニーズもある。
外部観光業者に丸投げする依存型や住民の暮らしを切り売りする観光から脱却し、観光コンテンツを自前で作り、自ら打って出る「地域主導型観光」へ舵を切ることが一番の住民利益となる。江戸時代の伊勢詣りをコーディネートした御師