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ポスト・コロナの地方観光づくり-「疎の経済」を回す

旅行には時間とお金と体力という要素が重要だ。体力もそこそこあれば、働き方改革などで時間はできるようになってきた。
しかしお金の面だけは不安が残る。旅行をしたいと思うには、家計における不可分所得(個人が自由に使用できる金)が重要だからだ。
この不可分所得を趣味や余暇にどのように振り分けるかは個人の考え方にかかっているのだが、そもそも不可分所得の総額が、総務省統計局の家計調査から算定すると、2001年と比較して、2017年には28,810円のマイナスとなっており、どうしてもメリハリを付けた消費にせざるを得ない。しかも大都市と地方、あるいは富裕層と貧困の格差、さらに世代間での生涯所得の格差拡大も旅行事業に影を落としている。
ことにコロナ禍で出不精の傾向はまだ続く「移動減少社会」が顕在化しつつあるので相当に深刻である。
日本社会はこれから激変する。既に消費者側では「量」が「良」では無くなっている。
ニューノーマル社会では、何から何まで満腹を追い消費を促した「密の経済」が通用しない。
その点で田舎は、なんと言っても「疎」であることが武器だ。
私は富山県南砺市の田中幹夫市長から「適疎」と言う言葉を聞いて「これだ!」と感じた。
北海道の東川町は既に「適疎」のまちづくりを行っている。
これからは適度な「疎」を保ちながらも依然と同様の収入を得る「疎の経済」を構築することだ。
地方の商店街や小さな観光地は元々が「疎」だが、これ以上、商店街が疲弊し、コミュニティが消えると制度の狭間に落ち込んでいる方々を救済できない。
ならば、そうした地域の観光はどう展開するか。
一つは健康や安全・安心をベースとしたコンテンツづくりだろう。
次が、薄利多売ではなく、高品質で高価格でなおかつ限定にした展開を図ることだ。
そして、なりわいや暮らしにどっぷり浸かれる旅を企画提案することで「モノを買う」関係から「住みたい」関係を創り、ここで暮らしたいと思えるような旅とすることだろう。憧れの地域
長期・短期滞在に係わらず、住民の暮らしを脅かさずに自分たちの暮らしぶり(常民の暮らし)の観光化を図り、一人ひとりの関係性を深めるような、人との接点や交流の場を創造していく工夫は欠かせない。
今回の厄災でますます、三密が通常の大都市を離れ、地方に暮らしの拠点を変えたいというニーズがますます高まっている。
とは言ってもどこでも良いわけではない。都市から外れた田舎の町であろうと、その地の暮らしの質を見極められ選択されるのだ。
我が地域への愛着心を高めてもらいリピーターとなってもらう、あるいは定住してもらうために、
「ここには自分の居場所がある」と旅人が感じられる「地域づくり」が必要なのだ。
もう不特定多数で顔が見えない人が「何人きた」を自慢するのではなく、地域のファンになってくれる人が何人いるか、その顔が見える方々が地元消費を上げてくれれば良い。
旅人が会いたいと思う住民の数が多ければ、地域への吸引力は否が応でも増してくる。
だからこそ“人対人”のコミュニケーションを重視した、人間中心の観光設計デザインが重要となる。
地域の笑顔はプライスレスだ。だから観光関係業界のスタッフが頑張るだけでなく、今は住民による地域丸ごとの「おもてなし」が大切となってくる。
ひとりぼっちとか不安から「狭い家でもう我慢できない!」「置いて行かれたくない」という心理状況にある人たちが街に出始めた。「オンライン飲み会は寂しい」という人たちが既に通常の客入りとなっている飲食店もある。
人の温もりは何よりの癒やしであり、愚痴や馬鹿話は面と向かって酒を酌み交わしたいのだ。
とは言っても、密な環境はまだ危険であるし敬遠される。
リスク・マネジメントの徹底をしつつ、良質の疎の観光地を目指して欲しい。

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