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ポスト・コロナの地方観光づくり-「安・菌・短」の旅-

仕事での出張と違い、旅は残念ながら「不要不急」だ。だが人は時間を有意義に過ごすためのサービスを求めている。特に贅沢な時間を消費する「旅」は、音楽や芸術と同様に荒んだ心身を健康にするため多くの方が求めている。
ライブハウスのイメージは落ちているが、音が体をビリビリと刺激するのはCDでは限界がある。フルオーケストラの演奏会だって指揮者の身振り、演奏者の様子など臨場していると感動が違う。世界遺産や名所旧跡も、4K等でいくら画像が美しいと言われても現場に立ったときの圧倒感は全く違う。
そう考えれば旅をすることや文化的な経験は、「人間」として不要不急ではない。
海・山・川の様々なアクティビティが可能だが、海は泳ぐもの、雪山はスキー・スノボをするものという固定概念しか持っていないか、世界の観光と比較すると日本各地の体験メニューは貧相だ。地域ならではの文化や四季折々の景観と食があるにも係わらず、昭和から埋め込まれたアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)の固定観念から抜け出ていない。
グローバル経済のスケールメリットがない地域の観光は、自然や食、文化の多様性をベースに、暮らしと結びついた総合的で知的・創造的なコトを探求する旅を提案することだ。
昔は「安・近・短」(安い・近い・短い)の旅だったが、当面は「安・菌・短」(安心・無菌・短い接触)という新たな旅が支持されるだろう。
地方は旅人にとってミステリアスな空間である。
ディープな日本を求める訪日客も現れていたのは、まさに地方の暮らしの根本部分が観光となることを意味している。
諸外国では観光産業を上位に位置づけをしているが、日本は工業輸出国となった昭和の尻尾をずっと引きずっていた。政府は「これからの地方は観光だ!インバウンドだ!地方は観光で稼いで自立しろ」とオーバーツーリズム対策は地方に丸投げし、本年2月の春節前には首相が「熱烈歓迎」のコメントまでするようになった。
地域活性化の最後の手段と見られていた観光もコロナウイルス蔓延で、インバウンドは急降下。観光は一転、存亡の危機となっている。
しかし日本の魅力が無くなったわけではない。世界ではまだウイルスとの戦いは終わらないし、日本もウイルスが消滅したわけでない。
ただ最初に書いたように、旅の楽しさを経験した方々は旅に出たくてうずうずしている。
第2波が来ない限り、自粛から一転、国内旅行の回帰が必ずある。
コロナ禍が本当に収束すれば、地域経済の復興の妙薬となる観光客も復活する。
間違いなくチャンスと言って良いが、我が地に戻ってくるかは不明だ。
今後は、地域でどのような物語を紡ぎ出すかが鍵となる。
自地域の高品質な魅力づくりのために、今は行政が観光事業者と交通事業者へ手厚い支援を行い、回復のきっかけづくりをして欲しい。支援を受けた事業者は、リスク・マネジメントをしつつ、観光客のニーズに対応した、新たなコンテンツ開発と受け入れの人材育成をすることだ。
地域住民も地域を再度学び、変化し続けることが重要となる。
行政も対処療法の人口増に右往左往することなく、地元人材の育成という種を蒔いて欲しい。

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