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地域再生のための観光とはなにか14~農泊編(2)

前回から少々、回顧録ぽくなっているが、この基本の考え方は今もブレてはいない。

◇行政からのゴリ押し農泊は禁物

「農家の体験は今、子どもたちが一番必要としています。」と担当教師からの熱烈な一言に千代地区の住民が動いた。前年に「農家ホームステイをやらなければ、本当の教育にはならんに」と校長先生を焚き付けた市瀬鎮夫さんや太田いく子さんが「みんな!やらまいか」との一言が農家民泊の受入を決定づけた。

農家民泊はこのように地元主体で、喧々諤々と議論した末に実践しないと、後に課題が噴出する。行政の押しつけで実施すると、「やらされ感」が残る。大事なことは自らの意思で参加してもらうことだ。

農泊による地域経済への波及効果は大事な点であるが、殊更、それだけを切り取ることは問題となる。再三述べているように地域特性(風土)を最大の武器として、地域の潜在力を際立たせ、この地は魅力的な場所、いつかは住みたいと感じさせることが大切である。

行政の押しつけでは、どこかに「どうしてこんな田舎に来るのか」とか「こんな辛い仕事をやりたがるなんて」など、マイナスな言葉がつい出てしまう。ところが自ら手を挙げて受け入れたらどうだろう。間違いなくポジティブな言葉に変わるし行動一つも変化する。

夫婦喧嘩していたときに子どもたちを受け入れた農家。帰り際に子どもに言われた『夫婦、仲良くお願いします』喧嘩していたのが判っちゃったんです。「受入を続けていると喧嘩しなくなった」と農家は言います。お金以外の効果が出るのが農泊なんですね。

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かつて旅人に一夜を提供することは当たり前だった。

田舎で吸う空気や感動する景観に加え、地産地消の食と一夜の宿と語らいを提供する。温かな人々の笑顔と無垢なもてなしは「Priceless」となり、遠方からの客が温かい地域との好印象を持つことになるだろう。

◇究極のツーリズム

様々に呼称される新たな旅は、ユーザーにとって非常に分かりづらく、地域が情報発信する上でも、あいまいになりやすい。その点で『農泊』は明確だ。

とは言うもののインバウンドによる外貨獲得を狙い、観光庁の旗振りで地方も海外旅行者の受入に積極的であるが、既存観光の範疇から脱しておらず、単価や過度なサービス競争に加え、海外誘客にかなりの公費を投入している。観光関係者にはそれで多少の潤いとなるだろうが、農泊を受け入れる住民にどのようなメリットがあるだろうか。

宮本常一は「旅本来の姿は、自分たち以外の民衆を発見し、手をつなぐものであったことを忘れてはならない」と述べていたが、旅人と地域住民という「人」と「人」のつながりが最も重要な要素だ。そこに暮らす人は全世界を探してもいない。ディズニーランドには各所にミッキーマウスはいるが、受入をする方々はたった1人の個性を持つ。つまり農泊はここを訪問しないとダメだとする『究極のツーリズム』になり、昨今語られる『関係人口』となるわけだ。その深い関係づくりは農泊の収入のみでなく様々な恩恵を受けることになる。

だから私は農山漁村民泊を奨める。

農泊は当事者意識が高くないとトラブルが発生しやすく挫折もする。学校側の需要が高い修学旅行の民泊は良いことばかりでなく、事故事件が必ずあることを忘れてはならない。想定できるりスクは事前回避を図ることが重要で有り、事故や事件が起きてしまったときは、早急な対応とアフターフォローをしないといけない。この部分は行政がきちんと対処すべきだろう。

農山漁村は学校という閉鎖空間と違い大きく開放的だ。教室の黒板は無くても夢を描けるし、現場でこそ輝ける子どももいる。

農泊では一宿一飯のありがたさだけでなく、命の教育、食育、道徳、そして何よりも人間関係を再構築できる教育の場であり、誰でもOKの観光施設化をしないことを望む。

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