◇文化と観光
観光は国の成長戦略であり地方創生政策だと政府は千切れんばかりに旗を振る。ちょっと待って欲しい。地方創生はそれぞれの自治体が独自に、自地域を活性化させる戦略であったはずなのに、いつから『観光政略=インバウンド戦略=地方創生戦略』になってしまったのか。
2017年6月に「文化芸術基本法」が施行された。そしてつい先日「文化資源活用課」を設置し「文化芸術を新たな観光コンテンツとして地域の発展に生かしていく」とした。
デービッド・アトキンソンさんは以前から盛んに「日本文化は大きな資源価値ある。維持するには訪日外国人に支えてもらうことが良い」と論じており、外国人や外圧、著名な有識者に弱い上に、地方創生が思い通りにならずいらだった方が命令したかもしれない。
裏話は単なる妄想だが、ともかく政府は文化の保存から活用に舵を切ったのは確かだ。
観光は多様な資源と人材が係わる総合産業であり、特に人に依拠する風土産業だ。
複数の資源や人が関係することでシナジー効果(相乗効果)が生まれ、旅人から支持・共感を得られる可能性が高くなる。中でも国内で一般人が入れなかった場所や文化財に触れられる機会が増加すれば、訪日観光客だけでなく国内観光に光が見えてくることは確かだろう。
京都や奈良だけでなく、全国各地に素晴らしい国宝や重要文化財がある。たとえ国指定がなくても「お宝」が眠っているわけで、これを使わない手はないだろう。無形文化財も体験として仕込むことも良いだろう。いずれにしても文化を『良い形』で次世代に繋ぐことだ。それには適正な料金徴収をすること。決して無料公開など考えないで欲しい。
伝統的な祭りも含め、日本の文化は多彩で豊富にある。この資源を消費しないで持続させる観光資源とすることが自治体の力量となる。
◇観光資源は人に尽きる
カナダには「観光資源は人」との発想があり、地域の手仕事を観光につなぐ組織「エコノミュゼ」(ÉCONOMUSÉE)という組織がある。
この組織は、工芸や農業、食品加工など、各地で良質な手仕事に取り組む職人や生産者を前面に打ち出したコンソーシアムで、加盟メンバーは木工や陶芸、革製品などの作家やチーズ工房、りんご農家ほか多様な人や団体が参加しており、魅力溢れる小さな営みを「横串」でつなぎ、旅行者にわかりやすく見せることで生まれる新たな観光を創出している。
加盟スポットは観光客に手仕事を見せたり、体験ワークショップの開催をしている。
エコノミュゼは地域に根付いた手仕事を行う職人こそが大事な観光資源であり、その職人に出会うことが観光体験になるとしているのだ。
翻って日本はどうだろう。伝統技術を継承する若手が非常に少ない。それは伝統産業や手仕事技術で食えないことが大きな要因だろう。
あるいは日本の観光産業全体を見ても、地方で従事する者は非正規雇用が多い。あなたのまちの観光協会で正規の職員が何人いるか?たとえ専任がいても年収が200万あるかないかの状態ではないだろうか。
地域の観光を担う人材は、観光だけで食えるようにしなくていけない。観光収入が増えれば雇用も発生するし税収も増える。