しばらくは、ちょっと難しい話をしていきます。
人口減少下の地域再編が都市計画・経済効率・空間再編の観点から主たる先行研究は「縮小」を扱っているのに対し、ここでは、自治体制度と住民自治の相互作用に焦点を当て、農山漁村における集落機能の「戦略的縮退」を自治の再構築過程として書きます。
また既存研究の縮退都市論 (スマート・シュリンキング )がインフラ再編や土地利用の最適化、コンパクト化といった空間的合理性を中心とした議論に対し、ここでは自治体が「どの機能を、どの主体の合意のもとで、どの順序で手放すのか」という政治的・制度的意思決定過程そのものを分析対象としており根本的に異なります。
さらに人口減少を所与の条件としている既存の縮退論が、「管理された維持」や「効率的存続」に帰着しがちであるのに対して、ここでは制度上「存続」を前提とする日本の自治体政策が縮小局面となり、構造的に齟齬を来している点を捉えながら、住民発意に基づく機能縮退・再編を自治体の正当な政策選択として位置づけています。
加えて、社会的イノベーション論が成功事例の提示に留まりがちであるのに対し、ここでは「撤退」という概念が、日本社会で忌避されてきた文化的・規範的背景を掘り下げるとともに、撤退を敗北や放棄ではなく、自治の持続性を担保するための能動的・倫理的選択として再定義していきます。
これは国主導の画一的縮小政策ではなく、自治体ごとの歴史・文化・生業に根ざしたオリジナルな戦略によってのみ、人口減少社会における持続可能な自治が成立し得ることを示唆するモノです。
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日本は2004年12月の1億2,784万人を総人口のピークに、毎年減少を続け、2024年4月1日の総人口は1億2,400万人となりました。
特に出生数の歴史的低下で「縮重構造」に直面しており、日本の人口は、何の対策も講じなければ2060年には8700万人と現在の3分の2となってしまうと予想されています。
さらに都市圏への人口移動が終息しない場合は、4分の1以上の地方自治体が消滅してしまう事態が以前より想定されているのです。人口減少と財政制約が、同時進行する地方自治体は、都市計画や行政効率などで再編など夢物語のような危機的状況なのです。
世界でも最先端に縮重社会とも言える地方は、自治そのもののあり方を問い直すことが重要になってきました。
これまでの縮退都市論やスマート・シュリンキングは、インフラの集約や土地利用の最適化といった空間的合理性の確保を中心に議論を積み重ねてきました。ですが、こうした議論は自治体がどの公共機能を維持し、どの機能を手放すのかという意思決定が、どのような主体による合意形成がなされてきたかという、制度的・政治的側面を十分に射程に収めてきたとは言い難いのです。
次章では日本の自治体制度が歴史的に「存続」を前提として設計されてきた点や諸外国の縮小を前提とする再編を紹介しつつ、住民自治と自治体制度の再構築過程として捉える理論的枠組みを提示していきます。
人口縮小局面において制度的前提が、今、緊張や限界を生じさせています。
そこで機能の縮小や公共サービスの撤退を、自治体の放棄ではなく、自治の持続性を確保するための戦略的かつ倫理的選択として位置づけ、住民発意に基づき正当化され得るのかを記述します。
以上、本章では、縮退都市論、社会的イノベーション論、ならびに日本の自治体制度研究を架橋しながら、農山漁村地域を主な対象として、縮むことを前提とした自治体再編の枠組みの理論的基盤を構築します。これにより国主導の画一的縮小政策とは異なる、自治体ごとの歴史・文化・生業に根ざしたオリジナルな再編戦略の可能性を導き出したい。

