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賢くダウンサイジングする

最近、地方自治体が財政逼迫との報道が多くなっています。
そこに暮らす住民が残っていながら“自治体の消滅危機”が目前に迫っているのだ。
岡山県の美咲町は、平成17年に3町(久米郡中央町、旭町、柵原町)が合併した町で、「卵かけご飯」の発祥地と言われる。
平成30(2018)年に就任当初、「長期計画も財政ビジョンも町に存在せず、それぞれが勝手にやるだけで課題解決の姿勢も政策立案の体制や機能もなかった」と青野高陽町長は言う。
だが驚いていても町政は進まない。危機的な財政状況を知ると早速改革に動いた。
合併時16,500人の町は、現在12,647人(令和6年7月)と、合併した町1つ分が消えた。
そのため町が出した答えは、「賢く収縮するまちづくり」を標榜し、「子どもの幸せ最優先」と「地域住民が主役」を2大方針に掲げ、人口減少に見合ったまちの大きさにダウンサイジングする中で、住民生活を守りつつ、将来に負担を残さない持続可能なまちづくりを目指した。
青野町長は「何かを始めるには何かを削る覚悟が必要」と公共施設の統廃合を推進していく。
その規模は37施設の解体に4施設の売却と大規模な整理を計画し、順次進める一方で新たに機能集約をした複合施設を設置している。
■壊すだけでなく、必要なものをこじんまりと作る
先日埼玉県や福岡県であった下水道陥没事故などが示すように、必要不可欠な上下水道や橋・トンネルなど道路関係の老朽化は喫緊の課題でありながら、財源不足で遅々として進まない。
ましてや老朽化した公共施設を更新する費用が捻出できないとする自治体が数多くある。
人口1人当たり建築系公共施設が全国平均の2倍以上あった町の維持費は年平均6億円を費やしていた。そこで町長就任から30年間で公共施設の延べ面積を財源ベースで46%減らす再編・集約を打ち出した。
ただし、やみくもに壊すとか撤去するのではなく、公民館や図書館、保健センターなど地域に不可欠なものは、施設を3つ壊すかわりに、こじまりとした施設を1つくるようにした。
“「物置庁舎」が示す覚悟”とメディアが紹介している役場本庁は「シンプル・コンパクト・フレキシブル・ローライフサイクルコスト」のコンセプトで、プレハブの庁舎で「ガリバリウム鋼板で天井も低い。雨が降るとうるさいんだよ。」と町長が笑って言った。
岡山県内の庁舎建築単価は、1㎡当たり58万円以上だが、美咲町の庁舎は何と約30万円に抑えることができた。
過疎自治体でさえ、豪華な庁舎を作る傾向があるが、いかに無駄遣いせず今、必要なインフラ整備は何かを体現したように感じる。
プレハブの美咲町役場
かつて私が勤めていた市での話だが、人口減少や財源の先細りが見えだしたため、長期計画でこれらを明記しようとしたが、議会から“右肩下がり”の計画はおかしいとの指摘があった。
現在の地方自治体でも同じような発想がまかり通っていないだろうか。
「出身地で毎年2000万円の赤字を垂れ流していた温泉施設や古い学校、プールを閉鎖するときは猛烈な反対署名もあった。街宣車が役場や自宅にやってきた。褒めてくれる人などほとんどいなかった」そうだ。
温泉の廃止では5時間ほど住民説明会で批判されたと聞きました。
それでも今までの延長線上に持続するまちは見えないと青野町長は覚悟をしたのだ。
現在はそうした思いが徐々に住民に浸透し理解されるようになってきました。
その先鞭を切り成果を見せたのが「みさキラリ」の愛称の美咲町多世代交流拠点で、役場本庁や公民館、図書館、保健センター、物産センターなどを集約や廃校を活用した「あさひなた」(旭地区多世代交流拠点)の結果だろう。
廃校をリノベした「あさひなた」
美咲町ではこのように、アクセルとブレーキを同時に踏みながら縮む町の対応を日々行っている。
青野町長の挑戦は、拡大路線の終焉を示す“地域の健康診断”でもある。
縮むことを恐れず、町の体力に見合ったサイズに整える。その「賢い収縮」が、これからの地方の生きる道を照らしている。
さすがに日本の人口が減り、地方経済が疲弊する中では活性化の特効薬はない。
むしろ拡大しすぎた公共施設や事業を畳むことも必要だと美咲町で実感した。

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