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暮らす人に惚れてもらうことが「田園回帰」の核

かつて田植えや稲刈り、脱穀は、地域総出の一大行事だった。
人が集い、助け合い、収穫を祝い合うことで、農村には自然と笑顔と賑わいがあった。
しかし今や、機械化と効率化の波が進み、「省力化」と引き換えに農村の風景から人の姿が消えつつある。
家の跡取りはいても、農業を継ぐ後継者は見当たらない。
日本の農業就業人口は1960年の約1454万人から、2024年にはわずか114万人へと激減。平均年齢は68歳を超え、「令和の米騒動」といわれる価格変動の中でも、生産を支えるのは70代が中心という現実だ。
20世紀の文明社会では、「土から離れること」が豊かさの象徴だった。
だが、土を離れることは同時に、文化を手放すことでもあった。
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旧来の日本文化である地域の風土や祭り、暮らしの知恵が消えつつある今、もう一度それを価値として再発見することこそが、農山村再生のチャンスとなるはずだ。
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ドイツでは、一般市民の半数が「フェアアイン(Verein)」という市民組織に所属している。
それは行政任せにしない社会的インフラともいえる存在で、消防団や公共施設の維持管理、スポーツ、音楽・演劇、地域文化の継承など、多様な目的で運営されている。
名門サッカークラブ「FCバイエルン・ミュンヘン」も、もとはこのフェアアインから生まれており、個人の意思に基づく「自発的な参加」が原則であり、それがドイツの市民社会を支える基盤となっている。
いま日本では、田舎の価値に気づいた若者たちが、少しずつ農山村へ移住し始めている。
だが、訪れた地域が旧態依然で暗ければ、定住にはつながらない。
人を惹きつけるのは、そこに暮らす人たちの“まなざし”と“輝き”だ。
「キラキラ」「ワクワク」を感じさせる暮らしぶり、幸せそうな笑顔があってこそ、「ここに住みたい」と思われる。
そのために必要なのは、行政主導の「誰一人取り残さない」ではなく、住民主体の「誰一人取り残されない」地域づくりへの転換だ。
もう、切り株のそばでウサギを待つ「守株待兎(しゅしゅたいと)」では成果は得られない。
動き、語り、つながる──その先にこそ、「暮らす人に惚れられる地域」の未来がある。

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