日本では荘園の農民は土地に縛られ、領主に対して労役や年貢を課せられており、江戸時代に至るまで、農民の移動は厳しく制限されていたのである。
それでも諸藩は新田開発を進めるため、密かに他領の農民を誘致した。
表向きには認められないため、仲介者を介して勧誘が行われ、農具の貸与や年貢の減免、移住費用の補助などが条件として示されたという。
いわば「闇の誘致合戦」が繰り広げられていたのである。
時代は変わり、現代の日本では居住の自由が憲法で保障されている。
だが、市町村職員に限っては、事情が許す限り、自らが勤める自治体に住んでほしいと願う。
給与の原資はその自治体の住民の税金であり、職員は住民の信託を受ける存在だからである。
現実には、合併によって吸収された自治体で、職員が真っ先に中心地へ移住し、旧町村の人口減少を加速させた事例は少なくない。
かつて維持されていた地域の祭りや日常の取り組みが途絶えたのは、職員が地域の担い手であったことの証左である。
自治体職員は「自治体ファースト」「ふるさとファースト」であるべきだ。
住民に寄り添い、地域の生活に根を下ろすことが、行政サービスの信頼を支える。
自治体トップもまた、職員が地元に定住しやすくなるよう、住宅補助や支援制度を検討すべきである。
地方再生は、外部からの移住促進だけでは実現しない。
まずは行政の内側にいる職員自身が地域に根を張り、共に暮らす姿勢を示すことが不可欠である。


