政府観光局は2025年度上半期の訪日客数が21,518,100人、旅行消費額は5兆円弱で年間ベースを19兆円に迫ると公表した。
政府は2030年に訪日客6千万人、旅行消費額15兆円の目標を掲げ、インバウンド観光に前のめりである。
一方で宿泊先の大都市偏在や人気観光地の観光暴風といえるオーバーツーリズムが発生。一部では交通の混雑ほか住民生活に悪影響を与えている。
またインバウンドに押され宿泊料の高騰や観光地の混雑から、国内観光客の旅行に陰りが顕著となっている。
■読み替えられる「地方創生」
外貨獲得の重要戦略として登場したインバウンドは、特効薬を持たない「地方創生」の目玉に押し上げられ、どう考えても馴染まない田舎の隅々まで「おもてなし」を強要させられるかのようだ。
令和5年3月31日に閣議決定した「観光立国推進基本計画」では、令和7年度までに農泊地域の延べ宿泊者数を700万人泊(関連消費は約1,060億円、所得創出は約420億円と試算している)とするとしており、その担い手を農林漁家とした。
これを受け農林水産省は、農山漁村において伝統的な生活体験と農村地域の人々との交流を楽しんでもらう「農山漁村滞在型旅行」を推進。令和5年6月に策定された「農泊推進実行計画」では、令和7年度までにインバウンドの割合を10%へ引き上げることを目標としている。
「農林漁業じゃ暮らせないからインバウンドで稼ごうぜ」と大きな旗を掲げているのだ。
日本人の食料を守るべき省庁が食の生産振興ではなく、インバウンド対策としての農泊を推進しているわけだが、農山漁村振興のために予算を取る方便として、インバウンド誘客をトップに位置づけていることが透けて見える。
生命産業を束ねる省がやるべきことは、本業で食える環境を整え、農林漁家の所得向上を第一義とする施策の展開が大切だろう。
こうした迷走する農政の失敗が本年の米不足騒動を生んだかもしれない。
まず行うべき施策は食料安全保障を軸とした農業農村振興である。
■農泊は農村を守る重要な柱
現状のインバウンドは、ムダと思える観光PRや過度なサービス競争など、従来の観光と変わらない項目に、自治体が公費を投入している点だ。
観光関係者にはそれで多少の潤いとなるだろうが、農泊を受け入れる住民にどれほどのメリットがあるだろうか。
平成8年、我が飯田市が体験型観光へ舵を切り、農泊を中心の教育旅行の誘致を始めた。観光資源に乏しいエリアはもともと通過型観光であり、観光県の信州で観光過疎地と言われていた。その課題克服が滞在型観光へのシフトチェンジだったわけだ。
観光政策としては現在、全国で行われる地域資源を活用した旅の提案は、
観光政策のために農山漁村を消費する取組をすすめるのは各自治体も再考して欲しいと願う。
施策に批判的なことを書いたが、筆者は積極的な「農泊」推進者である。
農村はリゾートではない。とは言うものの、ちょっとだけ自分たちの暮らしを『お裾分け』する農泊は副業として進めても良いだろうし、生産物や地域のPRにもなり、移住・定住にも効果がある。ただしあくまで本業を忘れない。観光事業にシフトしすぎて農地は耕せないでは本末転倒だ。
『農泊』は互恵の精神に基づき、暮らしている地域の課題を克服するための活動として有効手段ではある



