ある自治体の赤字ホテルの再生の折り、全スタッフのヒアリングで賃金に対する不満と宴会担当から、他のセクションは忙しいときに暇そうにしているという働き方の不満を聞いた。
業務が縦割りだと他の担当が忙しくても無関心で気づかないものだ。しかし忙しい案会担当も暇なときはある。そのことが分かり最初に提案したのはマルチタスク制の導入だった。
簡単に言えば、フロント業務が一段落したら、宴会係の仕事を手伝うというような感じだ。
こうした傾向は旧来の旅館で昔から行われており、賃金を安く抑えるために朝晩だけ働く「中抜けシフト」も存在する。業界内部の常識というか、外部から見たら経営を考えていない因習だ。スタッフを増やせなければマルチタスク制にして労働生産性を高め、従業員の不公平感も減らすことだろう。何よりも他セクションの業務を経験することで、内々では気づかなかった顧客の不満やニーズも発見できる。
もう一つ提案したのは、赤字でも従業員の首は切らない、さらに売り上げが上がれば、従業員の給与などに反映、分配すると約束した。売り上げが上がれば従業員のモチベーションも上がり、結果、お客様に喜んでいただくというホスピタリティが向上する。
おもてなしの気持ちを強く持つ従業員がいれば顧客満足度も高くなり「また泊まりたい」となるのだ。これでホテルの評価も高くなる好循環が生まれる。
しかし古くからの業務スタイルから抜け出せない宿泊施設も地方に多く存在する。
地域の旅館ホテルは駅と同様に地域の顔であり、おもてなしの最前線である。
旅人がちょっとしたことで、不快な思いをすれば、二度と来ないし家族や友人には、マイナスの地域イメージしか伝えない。
高野登氏は『「おもてなし」とは、相手に自分の心を寄り添えて対話をする姿勢そのもの』と言う。
旅人が目的地とした地域の駅やバス停を降りた瞬間からおもてなしは始まる。
皆様の地域の駅前はどうだろう。
見知らぬ地に自分が降り立ったとして駅から見てみよう。
季節はいつですか、どんな花が咲いてますか。
それぞれの土地には四季折々の素晴らしい景色があるはずだ。
もちろん自分は目的の観光拠点か宿泊施設の情報しか持ち合わせていない。
駅ナカや駅前の観光案内所を覗きたいが、さてどこにある。
分かりやすい案内看板はあるか。
もしかしたら雨が降っているかもしれない。
観光客は困っていたらどうしましょう。
駅前で迷っていると地元の方が声を掛けてくれるかもしれない。
地元住民はとても親切で笑顔で地域の楽しさを伝えられたら途端に地域の好感度はアップするはずだ。
旅人が現地で親切にされたり、ニーズとして持っていなかった情報を取得したとき、地域に対して新たな興味を持ち、再訪したいと思うからだ。
このように地域を見直してみよう。
今は地元のホテル旅館や観光施設が苦悩している。こんなときだからこし地元で泊まったり、観光の体験をしてみてはいかがだろう。
その地域の楽しさや温かさを、どう伝えたら良いかが地域としての第一歩となる。
それはパンフレットではなく、人の対応しかできない。
地域らしさは、その地に暮らす人が醸し出すもの。その人がどこの景観が良いか、どんな地域食を進めるかが「おもてなし」であり、本格化する前に支援の意味も込めて確認しておこう。
そして自分なりに地域に対する誇りとこだわり、幸せオーラを発していることが大切だ。
山羊だっておもてなしはできる:奈良清澄の里・粟