節分の恵方巻が全国的になりました。つい先日、多可町の戸田町長がFBに投稿していた「マイスター工房八千代」では、節分の日に合わせ徹夜で1万本を作ったとのこと。
そのマイスター工房八千代のことを少し書きます。
兵庫県多可町は兵庫県の内陸部、中国山地に囲まれた町で、大阪から中国自動車道を使用すると約1時間で到着します。「敬老の日」発祥の地で、古くより老人福祉で名を馳せました。
「マイスター工房八千代」は、昭和52年に8名で結成の生活改善グループ「乙女会」を前身とします。
結成当時は他地域と同様に食生活改善がメインの活動でしたが、転機は平成6年に訪れました。旧八千代町の依頼で町営の宿泊施設でのレストラン部門を任されたのです。ここで食事提供をしているうちに、自分たちの加工所を持ちたいと夢が沸々と涌き上がり、食品加工と創作加工の2グループで研究を始めたのです。
そして平成13年3月、農協合併で閉鎖された農協支店を農産物加工施設、裏手にあった閉園した保育園を喫茶と研修室にリノベーションした町の施設が竣工。4月に「マイスター工房八千代」(代表:藤原たか子)として施設運営を委託されました。
グループ念願の施設は10月に正式オープン。遊休施設を蘇らせ、食材を全て使い切り、地域の伝統食を復活、そして女性と障害者を雇用して人を生かし切る「もったいない精神」が随所にちりばめられた新たな地場産業が誕生した瞬間でした。
多可町では昔から地域行事に欠かせない巻き寿司という伝統食がありましたが、核家族化の進展から一般家庭で作られなくなっていることに藤原たか子代表は心を痛めていました。母親がよく作ってくれた巻き寿司の調理技術や行事食の伝承、地域食材の活用を考え、メインの「売れる商品」として「天船巻き寿司」を作り上げました。この巻き寿司は緑の山里をイメージし、半分縦割りした八千代産キュウリに卵焼き、カンピョウ、椎茸、高野豆腐というシンプルなもので、一見すると寿司飯は少なくバランスの悪い巻き寿司ですが、食べると絶品で何とも言えないキュウリの歯ごたえが「一度食べたら忘れられない味」(藤原さん談)です。
経営は宣伝費も無い中で1年目は100万円の赤字と決して順風宇満帆だったわけではありませんが、「人よし味よし笑顔よし」という絶対に味では負けないぞという気持ちとお客様への笑顔の接客から、徐々に口コミで購入者が増加。3年目で売上げが1億円を突破してようやく賃金を払えるようになりました。
さらに関西方面のデパートでの扱いも増え、平成24年では他の商品を含めて1億8000万円を売り上げる企業になり、社員の給料も月額20万円余が確保されるようになりました。
運営からスタッフすべてが女性という工房は、現在従業員28名と地域雇用の受け皿となっています。営業販売は水・木・土・日の4日で、火・金は仕込日となっていますが、この営業日は1日に300人から400人が巻き寿司を求め、早朝から人が並ぶため、整理券を配り保育園跡地の「喫茶マイスター」へ誘導しています。このため農村カフェである「喫茶マイスター」も早朝からお客さんが押し寄せ、そこで朝食を摂る方々も増えるという相乗効果が出ています。
まさに地域資源と女性を最大限活かしたコミュニティビジネスです。
藤原代表は「この仕事はボランティアでは続かない。お客さんに巻き寿司や総菜をドンドン買って食べてもらい、いっぱい喜んでもらう。それが従業員の活力となっている。赤字になってまで続けるのはよそうと話をしています。だから黒字になるように必死」だと言います。
現に営業日は深夜2時から仕込みに入っているだけでも理解はできます。
地域の女性がどれほど地域づくりに貢献できるかを身をもって示していることに、熱い思いがこみ上げました。