それぞれが暮らす地区には教育・福祉・産業ほか生活の関する様々な課題があり、議員や地区有力者が、要望を聞き行政に働きかけるシステムは、現在でも全国に残っているだろう。
ところが市民セミナーから生まれ出たものは、市民自らの自治意識であり、行政の縦割り業務や議員を立てないと要望が通らないという考えではなく、自ら考え行動することにより暮らしも変わるという意識変革であった。
これが行政施策や職員意識にも深く影響を与え、成果を発展させ「ムトス飯田構想」による地域づくり事業となり、その考え方が後に「農業地域マネジメント事業」に受け継がれていくことになる。
共通する理念は、地区に暮らすすべての人が参加し「自らの地区の課題を自ら探し考え解決のための実践活動を行う」である。
地域づくり・人づくりに特化した事業は、地域に学びの風土を根付かせ、住民主体の実践活動から多くの地域リーダーが輩出され、飯田市の地域づくりを核とした行政が育まれていった。
このあたりの解説や事例紹介は、紙面の都合で割愛するが、飯田型ツーリズムの基層において、地域に暮らす人に着目し、人づくりをしたことが、将来のまちづくりの大きな要素となっていることは言うまでもない。
多消費型社会が持続不可能であることが明確になった。バラバラになった個人の社会が不安で生命力を失ったとし、これからの歴史改革の方向性は「大きな転換」から「小さな積み重ね」へと変わってきている(内山,2010,164頁)
このように内山節が「共同体の基礎理論」で述べているように、今は派手な改革より、地元の小さな取り組みの積み重ねが重要になっている。
つまり現在の飯田市のいくつかのシステムを真似することは容易であるが、連綿と培ってきた学びと他者を温かく受け入れる風土だけは、この地域の歴史の積み重ねだけに他地域へ波及は困難であるということである。
しかし今からでも学びの実践は遅くはなく、むしろ急務であることに異論はない。地域で自ら学び実践する風土(学びあう土壌)を創らなければ、明日の地域はないのである。