農村の感性価値創造ビジネスを興す2
地方の高齢者や教育者は「こんな田舎にいても駄目だ」と公言し、若者を都市部へ追い出し「逆姥捨て山」状態となり、結局、農村が姥捨て山になってしまった。
こうした状況を打破するため政府では、様々な施策を展開、多くの助成事業などを創設しているが効果は限定的で、農山漁村での高齢化と生産人口の減少が止まる気配はない。
これからは農山漁村で、より多くの人が暮らせる環境を創らなければならない。
そのためには地域の活性化という、ぼんやりした文言ではなく外貨を稼ぎ、それを地域内で何回転も廻しつつ、地域から金が漏れないような仕組み作りが大切となる。
■ローカリゼーション・ビジネスの創業・起業
農林水産省が想定している農村RMOが目指すものは。多様な主体が農村に定住し、新しいライフスタイルを実現するとともに、災害に強く持続的で強靱な国土を実現したいとするものだ。
そのためには生産性と創造性の高い農村の労働環境を改善しないといけない。それは農業経営の規模拡大という水平思考でなく、垂直方向に伸びる高層マンション型の経営が良いと筆者は考えている。
RMOは地域内の資源に対し、様々な切り口からアプローチして「人」「もの」「金」を地域内循環させることが大切な業務となる。
「しごと・ひと」が集まり、持続できる地域になることが重要だ。そのためには地域発意によるローカリゼーション・ビジネスの創業・起業が育つかどうかにかかっている。
農村の民はかつて生業を持って生活してきた。自由経済による競争など、同じ土俵で戦うことは現実には無理だ。
補助金などでコントロールするやり方でなく、例えば地方でしかできない仕事や大手企業が参入してはいけない業種を作る、障害者が「生業」を持ち暮らし続けられるなどの「ユニバーサル政策」と、農家のほとんどが所有する軽トラックやスマート農業に使用する農機の取得税の軽減など「田舎タックスヘイブン」と言った柔軟な税制改革が、真の農村再生となると確信する。
ふるさとに帰りたくても仕事が無いという環境を改善し、新たな雇用場所ができれば、住民にも組織のメリットが享受されることになる。
■地域をより良い形で持続させる
各地に伺うと自分の地域を盛り上げたいと思う方にたくさん出会う。その方々は大概がポジティブで「何か面白いことをやろう、地域を元気にするぞ」と考えており、そうした地域には地元の叡智と地域になかった外部からのノウハウや人材が集まってきて、新たなアイデアが生まれ、必ず動き出している。
コロナ禍で最も直撃を受けた観光と飲食産業だが、農林漁業や酒造産業もそれらに連動して消費が落ちた。ワクチン効果が顕れても地方経済が回復するには相当な時を要するだろう。
もう陳腐な地域間競争に終始するのではなく、農村地域本来の力量を見せ、農業を愛してもらい、移住してもらえる取り組みが必要であり、そこは地方自治体の力量が問われている。
日本野鳥の会を創設した中西悟道(1895-1984)は「鳥は空間生活者である。地球上全ての場所が「命のすみか」野の鳥は野に。鳥とは野鳥であるべし」と言った。
ならば筆者は「日本人は土の生活者である。土がある全ての場所が「命の生産地」人は農地にあるべし」と言いたい。
■道の駅・直売所を地域のホッとステーションにする
全国には道の駅が1,193駅あり、観光拠点とする整備も各地で進められている。しかしマーケティングや客の導線を無視した施設と品揃え、過度で華美な施設投資により赤字体質に陥る施設も少なくない。これからは点から面とする資源の連携が不可欠だが、拠点が『点』となっており、その背後にある素材を活かし切れていない。
道の駅の目的は、道路利用者への安全で快適な道路交通環境の提供と地域振興であるが、人口減少が著しい地方では、複合的な拠点機能が求められるようになってきた。
特に昨今の災害に対する高度な防災機能や広域合併や高齢化に対応して、役所の窓口から診療所、地域福祉、地元住民の足の結束点、買い物難民対策ほか様々な住民サービスを提供することが重要な要素となっている。
地域づくりとビジネスは“表裏一体”である。ゆえに道の駅を「まちのホッとステーション」とすることは農産物の販売以上に重要な視点となる。また今後はこれらに加え、地域の仕事づくり、住民の寄り添う場など地域ハブとしての複合型拠点への変化が求められる。
大規模施設でなく、むらの小さな直売所に行くと、店舗の中には客がいなくてもそこには笑顔が拡がっている。出荷者であり経営者でもある直売所の主たちが、楽しく交流しているのだ。
そして自分の家にないものを購入していく。売ると言うより物々交換の場と化しているが、まさに相互扶助の世界がそこに垣間見える。
■「お茶の京都みなみやましろ村」
地域の健康バランスが整っていれば、人材還流が必ず起きるし、内外の資本の投資意欲を喚起する。その良い事例が京都府の外れの山間部に位置する南山城村で、2017年に新設した「お茶の京都みなみやましろ村」だ。
とかく全国の道の駅は、地元産だけでなくあらゆる商品を置く傾向があり、ともすると地元のオリジナル商品より他地域やパッケージの地域名を変えただけの土産品が並ぶケースが多い。
しかし「お茶の京都みなみやましろ村」は、“確かにこの土地で産まれたもの”を「土の産(うぶ)」と銘打ち、村人が営み続けて産まれたモノやコトを発表する場「村のダイジェスト版」とするコンセプトにしている。
南山城村は、京都府内第2位の生産量を誇る宇治茶の主産地で4分の1に当たる約800トンを生産している。しかし昨今ではペットボトルのお茶が席巻し、急須でのお茶の淹れ方など若者は知らない。
退路を断って役場から転身した森本氏は、あえて村内約80戸が生産するお茶をハイパーコンテンツとした。とは言うものの宇治茶を名乗っても村は認知されない。そこで「村茶」と命名し、普通のお茶屋さんでは売らない個性的なお茶や、ここしかないお茶も取り揃えるとともに、商品開発では『村茶パウンドケーキ』や『村抹茶ソフトクリーム』、ペットボトル茶『ちゃどころ茶むらちゃ』ほか、様々な関連商品を開発し、道の駅の人気商品とした。
さらに道の駅をモノ・コト・ヒトのプラット・ホームとして、村の産業や観光振興を進め、働く場所づくりや移住定住といった波及効果を生み出し、さらに村人の生活に役立つ場とするということを明確で簡潔に示してきた。
道の駅に行くとまず若いスタッフが多いことに気がつく。道の駅が地元の若者を残すプラット・ホームになっているのだ。㈱南山城のシンボルマークも、村のしがらみを突破する姿勢を表現しており、村に大きな雇用の場ができたことで若者が村に定着しつつあり、道の駅の隣に新規ホテルが開業した。まさに地域力の向上が外部の投資意欲を喚起した好事例である。
「村茶」そして「村」そのもののブランド化を図る「お茶の京都みなみやましろ村」は京都府山城地域12市町村の牽引役を果たすまでになった。
『村で暮らしつづける』ことを実現できる村という目標を描き、それに沿った行動を誘発する役目を果たす道の駅は、RMCの一つのロール・モデルとなるだろう。
■入りを量りて出ずるを制する-ローカルサプライチェーンの構築-
そもそも地域を活性化させるには『リーケージ問題』を解決しなければならない。リーケージとは『漏れる』と言う意味である。外貨をどれほど稼いでも、地域からその金がエリア外に漏れていては地域は活性化しない。
この課題を解決するには、RMCが具体的に地産地消の取り組みを推進するしかない。まず「域内自給率」向上のため、地域内での買い支えをするバイ・ローカル運動を展開しよう。
そこで行政と連携して学校給食や公立病院、福祉施設などの公共施設から、域内調達率を高めることだ。現状では、地元内の流通体制が弱く生産者と流通関係者の意識の齟齬もあるだろう。
食を提供する公共施設をはじめ、地場食材に関する情報を十分には理解できておらず、意識が薄いかもしれないし、地場食材を利用するためには流通システム上問題がある。
さらに供給量・供給時期とも限定的な地場食材は使いづらいだろう。行政側も縦割りのため横断的に考え取り組む姿勢が不十分という問題点も見え隠れする。
そこは一年間で使用する農産物データを集約し、農家やJAと協議して作付け計画を作り、調達配送システムを確立する中で、域内の店舗、旅館、民宿の域内調達率を高め、域内流通を活発にすることで、地元の生産者から流通・小売り業者などを網羅した買い支えシステムができる。
さらに広域の同一経済圏で連携強化を図り、手を取り合い支えあう経済関係づくりを緊密にすることでローカルサプライチェーンの構築を目指していただきたい。