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SDGsで再起動する-風土ツーリズムのすすめ

社会としてどのようにコロナウイルス共生していくか。残念だがウィズコロナ下での観光を今は考えるしかない。
世界で経済活動や人の営みが制限されたコロナ禍が、皮肉なことに地球温暖化のブレーキとなった。我が家から見るアルプスの山々が今年はとても綺麗で空が澄み渡っていた。
移動が不可欠の旅は足を封じられては、甲羅に閉じこもった亀のようなもの。ひっくり返されようが手も足も出ない。
SDGsにおける観光分野では、環境保全と気候変動への対処だけでなく、包括的で持続可能な経済成長をはじめ、雇用創出や資源効率性、文化的価値、多様性と伝統への配慮ほか相互理解や平和と安全保障と多様な貢献を期待されている。
このような状況だからこそ、SDGsの目標を観光に埋め込み再起動をするチャンスだ。
そこで「風土産業」としてのツーリズムの考え方が大切となる。
環境保全やエコロジーが叫ばれる現代において、ローカルは最もエコであるし、地産地消が進めば、遠方まで物資を運ぶ必要もなく流通におけるCO2削減となるのは明白だからだ。
まだ本格的にインバウンドも動かない。
マーケットは脚下にありで書いたように、当面は「近攻遠交」の旅を企画するしかない。と言うよりコロナ禍以前のように、田舎の隅々までインバウンド観光をする必要は無い。
風土産業は、環境時代の世紀、そしてアフター・コロナの時代にもっともふさわしい理論だ。
ことさら環境問題を断片的に取り上げるつもりはないが、少なくとも「自分たちは空気や水を作り、エネルギーを供給している」と地方は自負して欲しい。
飢饉の時代、実は蕎麦を食べていた山村に餓死者はいなかったと聞く。エネルギーとなる糖質は米と対して変わらないし栄養価も豊富な上に、山菜にキノコ、川魚や獣肉と米が無くても山中は本当に豊かだった。だから「椀貸伝説」が各地に残るのは必然なのだ。
その地元の風土を最大限に活かす「適地適業主義」はSDGsと合致する旅の要素となる。
旅人にとって農村で吸う空気や景観、感動する体験に加え、温かな人々の笑顔と無垢なもてなしは「Priceless」となり、温かい地域との好印象を旅人が持つこととなる。
ゆえに地域の特性や環境、文化をベースにした新たな観光経済の仕組みを作り出すことが重要だ。
私が10年来提唱している『風土ツーリズム』は、食を中心として地域の文化歴史や暮らしなど、図のような関係性で行うツーリズムに加え、さらに『風土マイレージ』の考え方を要素に加えた取組を提唱している。
風土マイレージは、地域を前提にした資源であり、決して他所からの輸入ではない。同じ経済圏で、関連する文化・歴史を辿ってきた地域を前提に、その地域風土の資源を活用し、循環させ次の世代に繋ぐことを可能とするエリアを想定している。小規模で既存の観光資源が少ない市町村でも、同一の歴史的圏域であれば、食をベースに連携をすることで、望む人々に対応することが可能となるのだ。
農山漁村の最大の武器は、海・山・里の自然があり、独自の食文化と深い歴史文化だ。
アフター・コロナでの観光の創造には、自然・文化・教育・経済・生命・健康など、極めて多様な観点からの総合的な探求が欠かせない。これはまさに地方の暮らしの根本部分が観光となることを意味している。
国内旅行者のみならず訪日外国人が期待する、食の素材と文化の両方有している地域では、巨大なテーマパークや世界遺産が存在していなくても、十分に観光客に訴求する資源を持っていると言える。
元来、旅での食事はプライベートでもビジネスでも、旅行者のほとんどが「◯◯に行ったら◯◯を食べたい、地酒を飲みたい」という願望を持っている。
極端な話では蕎麦一杯を食べるために、車で数百キロを移動するのに労を厭わないデータもある。地域ならではの美味しい料理や新鮮な素材が食せるなら、必然的に旅の目的としても成立するわけだ。
生産地の食文化や風土が重要な要素となるガストロノミー。
例えば「うどん県」を標榜する香川県でも、地域ごとにうどんの出汁が違う。
全国の「ご当地うどん」も、小麦粉を使用する点では同じだが、各県で開発した小麦も相まって香りや麺の太さ、硬さ、形が違う。
池波正太郎の小説でも登場する「一本うどん」(京都・東京・埼玉に老舗が残る)は、実際に食べると不思議な感覚だ。伊勢参りの旅人が食した「伊勢うどん」は、御師の歓待で飲み疲れた胃腸に優しいうどんにしている「おもてなし」の一環かもしれない。一本うどん2一本うどん
つまり同じ素材でも「ところ変われば品変わる」のが、地域における食の醍醐味であり、地域観光の核となっていくものなのである。これら食を中心において、地域の資源と絶妙なハーモニーを奏でれば、必ずや旅人を惹き付けることになると確信している。
ゆえに風土 (Food)ツーリズムによる食の魅力を発信するため、次の5点で総合的に考えていただきたい。
①食に関わる素材を発見・発掘する
・地域が有する食に係わる素材をリスト化・データベース化する
・地域の食に関する情報ネットワークを整備する
②活用する食材を選択する
・地域・旬・量が限定の食材を活用する
・地域のキャッチイメージとなる素材を活用する
③「食べる」魅力を高める
・地域独自の調理方法や地域らしさを感じさせる提供方法を工夫する
・観光地における食の選択の幅を広げる取り組みを進める
④「買う」魅力を高める
・食に関する消費形態にバリエーションを持たせる
・素材は一つでも加工で工夫できる
・販売方法を工夫する(ストーリー化など)
⑤「食を体験する」魅力をつくる
・農林漁業のリアルな(ほんもの)体験を提供する
・食べ方・文化など付加的な体験を提供する

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