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ポスト・コロナの地方観光づくり-雇用の受け皿となる観光へ-

世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)の報告で、2029年までには4億2100万人の雇用創出が予想されるとコロナ禍前に分析していた。
たしかに観光が雇用を増加し、賃金が上昇すれば地方は活性化することは間違いない。
日本の観光も明るく見えるが、人口の1.5倍以上の速度で進む生産年齢人口の減少で、観光どころか日本経済も企業も存亡の危機にある。
疎の足りない担い手を外国人労働者で担保しようと「改正出入国管理法」を施行し、5年間で約34万5000人の受け入れを見込んだが、政府の目論みは見事にくじかれた。
コロナ禍で失業率は統計上で6%まで上がるとされるが、実態はもっと酷いだろう。
特に今回は、飲食業や観光業、エンタメなどへの打撃は強烈だ。この業界は非正規やフリーが多く、かつ通常の収入も高くない。経済的支援は遅々として進まず、延期した五輪開催の頃には都内にホームレスが溢れるだろう。
コロナ禍と関係なく観光や飲食、エンタメ系は都市に限らず低賃金なのだ。
これからは観光で地方創生だ!と政府は言った。
だがシンプルに考えて見よう。
急増したインバウンド観光で、地方の観光関係者の賃金が上がり、生活が向上した人は何人いるか。地域の観光協会やDMOでも正規職員は何人いるか、専任がいても年収が200万あるかないかの状態だろう。
実際に観光産業全体を見ると、地方で従事する非正規雇用が常態化している。
観光部門の賃金アップを図ることは、今後の地域経済の活性化で大切な要素だが、この低賃金労働が常態化している状態に、コロナウイルスが交通、小売、宿泊、飲食、サービス業などを直撃した。
製造業分野はIT化などで省力化ができ賃金を上げることは可能かもしれないが、宿泊施設は人でなければ成り立たない業種である。
例えばロボットが部屋の清掃やベッドメークができるレベルにはまだなく人に頼るしかない。
努力して毎日、部屋を埋めればバックの雇用を増やさないと廻らない。
全面にロボットが出てくる「変なホテル」であっても、バックに従業員が控えコントロールしており、それは話題作りのパフォーマンスの一つに過ぎず、AIに取って代わられるのはまだまだ先のことだ。
現段階でも雇用状況の悪化は止まらない。今は賃金アップどころか雇用機会の喪失が心配だ。
地域の観光関連産業の雇用を守り、来る反転攻勢に備えることは、個々の事業者だけでは限界がある。元々、財政基盤が脆弱であり、ギリギリの状態で自転車操業をしているからだ。
ちょっと前のめりで非常事態宣言が解除されたのは、本当に小さな飲食店が潰れてしまうと考えるのも無理はない。
現場を持ち、リモートワークなど絶対にできないサービス業の観光。もちろん観光地はテイクアウトも不可能だ。
リスク管理をするためには、今より人が必要なのだ。
従業員がお客様と短時間接触で済ませることでリスクが軽減される。そのためにお世話する従業員数も増やさないといけない。そこは宿泊費などに人件費を添加するしかない。公衆トイレの管理も今までの体制ではダメだ。
経済の中では、災害や今回のコロナのように何か事が起きれば、真っ先に影響が出て一番最後でないと回復しないのが観光だ。つまり非正規雇用も多く賃金も安く災害一つで客が消滅するという日本経済でもっとも弱い産業なのだ。
JTBが「新型コロナウイルス感染拡大による暮らしや心の変化および旅行再開に向けての意識調査」を公表したが、旅行を再開するきっかけは「治療薬やワクチンが完成し効果が出る」(45.6%)と言う結果が出ている。
国は『ふっこう割』の補助金を乱発するが、これはあくまで『短期』のイベント施策であり、本質では無い。しかし客が来なければ座して死を待つことになるので、当面は乗っかるしかない。
安さで客を誘導する「価格訴求型旅行」は、ホテル・旅館の稼働率向上につながるし、地域は元気だよ、大丈夫だよとの情報発信では効果が発現するからだ。ただし上質の観光地ではブランドイメージを毀損しないよう留意しないといけない。
観光振興は、観光関係業種だけでなく、地域あらゆる経済に活力を与える肝だが、さりとて第2波の不気味な兆候が出てきた中で、再宣言されたら地域の観光だけで無く中小や個店の経済は完全に崩壊する。痛し痒しの生殺しはまだ続くだろう。
とは言っても、今は良い情報発信を行い夏休みの動きをつくるしか手立てはない。
人々の動きたい旅に出たい欲求に応える体制を創ることを今はやりましょう。
観光はとにかく安全と認知されないと復活しない。

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