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SDGsで再生する-農村文化というソフトパワー

「漆」の技術や、それを使った「漆器」は「japan」と英語表記される。
しかし、疎の肝心の漆は国内の年間使用量50トンの漆に対して国産はたった1トンで輸入に依存しているのだ。
「japan」でありながら、最後の仕上げをする塗師だけを育成しても本物にならない。
漆器の「ろくろ」の技術者や素材である漆かきの技術、そして特殊な漆かきの道具を作る「野鍛冶」が絶滅しかけているのである。
日本の漆搔きの方法は2種類ある。
岩手県二戸市の「浄法寺漆」は中国から伝わった6月から8月の2ヶ月間のみ採取し、毎年採取する「養生掻き」だったが、福井県の「越前衆」が、一本の木から一年で全ての漆を採り尽くす「殺し掻き」の手法を教え、その採取方法が主流となっていった。
日本文化は素材を使い倒すことでも素晴らしく、枯れた漆は「漁網の浮き」としてプラ製品ができるまではリサイクルされていた。
私が二戸市浄法寺地区の漆器職人を養成する「滴生舎」を訪問したころは、職人希望者を市職員で採用し育てる事業を始めたばかりだったが、現在ようやく労力に合う単価での引き取りができるようになり、漆搔き農家が数名復活した。国産の70%を生産する浄法寺の漆の木も新たな植樹をしながら生産を維持しており、漆周辺の仕事まで総合的な振興ができるようになった。
ダルマの生産に欠かせない「本ニカワ」も、一時期まったく生産されなくなった。現在も国産が少量な上に長期間の品質が保てない。しかし背に腹は変えられず低品質の中国産を使用せざるを得ない状態だ。この本ニカワも漆と同様に日本の建物や絵画に欠かせない。文化庁も国宝の修理復元で、国産は30%以上と規制緩和していたが、関係者からの提言もあり現在は100%国産でなければならないと変更され、本ニカワ生産を行う企業も現れた。とは言うもののまだ国産は少量だ。
本ニカワは鹿皮を24時間ほど煮詰め、煮こごりになったものを乾燥して作る。今、全国各地で鹿害があるところは、なりわいであった古い生業を、新たな生業として復活させるチャンスだろう。
本ニカワ生産が減った原因は、戦後の食糧増産のため農家が農業生産以外の様々な副業をやらなくなったことや、安い外国産の原料との単価競争に負けたことによる。当時の政府は日本の様々な文化が、農村の生業から生まれていることを全く知らない無知であったことを物語っている。
茶道の代表格である千家は「煤(すす)竹」の茶筌を使用する。その煤竹は茅葺き屋根の内部骨組みに使われたもので、長年囲炉裏の煙に燻されたものが良いとされる。
お気づきだろう。茅葺き屋根の家自体が無くなりつつあり、今後本物の材料の不足が懸念されているのだ。P1000360

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「和紙」生産も同様だ。茨城県小美玉市の農家5戸で全国生産の7,8割を生産している手すき和紙づくりに欠かせないトロロアオイが、高齢化の上に重労働で要望があっても割が合わないことで、2020年で作付け栽培をやめる方針としたのはショックだった。和紙生産者には大打撃だが、これも和紙技術者だけに焦点を絞っていたため、大切な原料生産まで支援が届いていなかった証拠である。
飯田の水引(元結いは江戸時代のブランドだった)は、農家の冬場仕事から始まった。和紙も同様に繁忙期ではない冬の農家の閑職だった。
様々に分業が進み専門性を帯びてくると農家は「農産物」を生産する人でそれ以外は必要ないとの流れが出てきたり、化学製品に取って代わられた「製糸」など仕事として成立しなくなっていった。
伝統技術の継承者が非常に少ないのは、伝統産業の技術だけでは、食べられないことが大きな要因だが、職人個々の技術で支えられた手仕事であることや伝統を守るためにイノベーションが起きづらいことも要因となっている。
また日常で使用されていた暮らしの道具も、汎用の安価な工業製品に席巻され、日本の良いモノが売れなくなり、一つ一つの単価を上げざるを得なくなる、それが売れない原因になるという負のスパイラルに入ってしまったのだ。
東洋大学大学院の丁野朗客員教授は「日本の金物は精巧で、世界でも人気が高い。兵庫県三木の金物は、大工道具として欧州ではよく知られている。海外ではよく知られているのに、日本人が気づいていないことが実は多い。日本人が道具や文化に疎くなったことも要因ではないか」と述べている。
こうした守らねばならない伝統技術を未来に伝えるためには、昔のように日常で使ってもらうことが一番だ。しかし多量生産大量消費を文化にしてしまった日本では、良質でも高いモノに国民の大多数が手を出さない。
ここに観光の出番がある。大切な文化資源を観光の核として活用し、より良い形で次世代に繋ぎ持続させるのだ。
それはガラスケースの中で伝統産業を展示してみせることではない。どれほどの価値があろうと、誇りを持つ方がいようと、旅人の強い支持や消費者の需要がなければ、衰退は止まらないのだ。
そこは各地で勃興したDMOの力量が問われるところとなる。
伝統技術の背後にある日本独自の歴史文化を、丁寧に説明できる内容かどうか企画では、客目線でブラッシュアップすることが大事だ。
観光客にその事実を丁寧に結びつける。自然を畏怖し八百万の神としてきた歴史文化、地域それぞれの民俗風習の関係を語り、理解してもらわないと訪問者にはつまらないものとなる。
そこは資源の関係性や暮らしを翻訳して語るガイドが、とても大切な役目となるのだ。
既存のコンテンツもプラスアルファを加える知恵のシェアリングをすると良い。
地域でたった一人しか知らない資源は、シェアしないと素晴らしい財はいつしか消滅する。これを地域全員が認識すれば地域の資源となる。
そうして培った様々な知恵を、訪問者に伝えることで、知恵のシェアリングとして拡がりを見せ、持続する社会として破格のメリットをもたらすこととなるだろう。

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