飯田市千代地区は山村振興地域で2018年4月現在、人口1693人(593戸)の過疎山村エリアだ。
元々千代村と千栄村が合併し千代村となり、その後飯田市に合併した。
そうした経過から千代地区には保育園と小学校がそれぞれ存在している。
過疎高齢化の危機感は1960年代から持っており、常にこの課題解決で地区がまとまり活動をしていた。今では盛んとなった「民泊」も1963年から2ヶ月間学生を滞在させる「千代高原学生村」を実施。さらに1996年から体験教育旅行の最初の受入れ地として頑張っている。
棚田百選の「よこねたんぼ」の復活も早く百選の選定前から自治会が旗を振り保全活動に取り組んできた。
それでも過疎化・少子化の波に飲み込まれ、千栄保育園に通う園児が毎年10人以下となる中で、とうとう市より次の提案があった。
「千栄保育園は廃園し、千代保育園に統合する。もしくは、存続するなら千代保育園を民営化し、その分園とする」
千代にとって大衝撃の提案に自治会は市側との協議だけでなく住民による勉強会や会議を度々開催し、地区としてどのような未来を描くかを協議していった。
「これは千栄保育園だけの問題でなく千代地区全体の問題。千代は一つ」の意識は地区民が全員持っており、直接影響する保護者も「自治会が必ず守ってくれる」と慌てることも無く次の一手は必ず見つける、見つけてくれると安心していた。
自治会も早急に結論を出すべきではないとの判断をして、保育園や小学校の保護者、自治会役員ほか団体関係者17名による「千代地区保育園問題特別委員会」を設置。既にこのとき「保育園を無くしたらいずれ小学校も同じ運命をたどる。そして地区が消滅する!だから千代の子どもは千代で育てる」との地区合意は整っていた。
そこから1年以上時間をかけて民営化について検討を重ね、平成16年11月、定例自治会において、千代保育園を民営化、千栄保育園をその分園とすることを決定、社会福祉法人を設立することを全員一致で決議した。
次は社会福祉法人の設置に向け、基本財産1000万円を募る。地域の全世帯が1万円づつ出資、足りない分は東京の千代ふるさと会などへお願いし設立。当時では保育園を運営するという全国的にも珍しい取り組みとなった。
「地域の子供やお年寄りは地域で守り育てる」という理念の社会福祉法人「千代しゃくなげの会」は、保育園に続き平成23年度、市公設の老人デーサービスセンターの運営を受け、高齢者福祉の拠点として機能させている。
保育園では保育活動のなかに「地域を知る」ことを狙った活動を積極的に展開。地域の農家21戸と契約し、地産地消給食に使った「良育」や、月に1回の「食育の日」は、地域の食材だけで給食を作る。さらに生産者と園児が一緒に給食を食べる交流を図っている。また「散歩」と称してで年2回、1日がかりで地域を散策する日を設けている。
千代地区の特性を十分に活かした「地域を知る」保育活動には、民営化したときの理念である「千代の子どもを千代で育てる」が根付いている。
過疎地の後ろを向かない自立の覚悟と共助を実践して見せた千代地区が持続するために力を振り絞った事例だ。